すぐ先の自動販売機の受け取り口に手を伸ばしていたリョウが、私たちを見て目を丸くしている。

「こんにちは」

 近所の人にするように、木月さんは腰を折って挨拶をした。つられて私も頭を下げた。

 いぶかしげに眉をひそめたリョウが、
「なんで?」
 と短く問うた。

 なんで木月さんがここに。
 なんで亜弥がここに。
 なんでふたりがここに。

 どの『なんで』を尋ねているのかわからない。言葉に詰まる私をかばうように、木月さんが一歩前に出た。

「駅前の本屋さんでばったり亜弥さんに会いました。亜弥さんが会いにいきたいと言うので一緒に来ました」

 日記を朗読(ろうどく)するように説明する木月さんにギョッとする。それじゃあ、まるで私が会いたがっていたみたいに聞こえてしまう。
 アワアワしていると、木月さんが薄い笑みを一瞬見せた。

 これは……確信犯だ。

 信じられない。木月さんとのやわらかい会話がぜんぶ嘘に思えてしまう。

「んだよ。驚かせんなよな」

 ミネラルウォーターを一気に半分ほど飲んだリョウの目は、言葉と裏腹にやさしい。これは私の感情がそう思わせているの?
 作業着から見える腕が、はちみつ色に焼けている。ヘルメットを取った髪は、はじめて会った日と同じ、金色を思わせた。

「ちょうど今、バイト終わったところだから」

 肩をすくめたリョウに、
「あれ? 今日は遅くなるって言ってませんでした?」
 今度は木月さんが驚きを声にした。

「昨日ちゃんと言ったろ?」
「そうでしたかねぇ。じゃあ、仕こみはお願いできるんでしょうか?」
「たまには半日のんびりする。これも昨日言ったはずだけど」

 ため息をついてみせるリョウに、木月さんはがっくりと肩を落とした。

「しょうがないですね。観念して仕こみはやらせていただきます。それじゃ、亜弥さん、明日お待ちしていますね」
「え……はい」

 仰々しくお辞儀をして去っていく木月さんを、ぽかんと見送る。

 急にふたりっきりにされるなんて予想外のこと。

 どうしよう……。