流されるように歩いているけれど、進むにつれて、不安で足が重くなっていく。

「リョウくんの――」

 木月さんの言葉が遅れて頭に入って来た。隣を歩く木月さんの細い指が私の胸元を指している。

 ん? と視線だけで聞き返す私に、木月さんは細い目を線にした。

「そのペンダント、リョウくんがつけている物に似ています」

 三日月の形のペンダントトップがキラキラと光を放っている。

「あ、はい。これ、リョウのペンダントなんです。今度会ったら返さないとって思ってて……」

 返さないといけない物を勝手につけているなんて、ちょっとまずいかも。意味もなく隠すように握りしめた。
 木月さんはなんでもないように「そうですか」と涼しげな目を前に向けた。

形見(かたみ)ですからね」

 さらりと放たれた言葉が(やいば)のように突き刺さった気がした。

 形見……? この間、赤ジャージに言った嘘のこと?

 でも、木月さんはあの場所にはいなかったのに。
 足を止めた私に、木月さんはハッと握った拳を口元にやる。

「すみません、また余計なことを言ってしまいました。てっきり亜弥さんにはお話しされているのかと……。本当に私はおしゃべりですね」
「いえ……」

 聞きたいことはたくさんある。けれど、きっと木月さんはこれ以上は話さないだろう。
 形見ってどういうこと? 誰かが亡くなったってことだよね。それは……誰?

 考えをジャマするようにセミの声が大きくなる。この街は駅前だって緑が多くて、夏はセミの合唱がこだまのように時間差で騒ぐのだ。

「亜弥さんは、PASTの店名の意味って知ってますか?」

 話題を変える木月さんに、
「PAST……過去、ですか?」
 と中学で習った意味を答えた。

「そうです。過去、です」
「過去……」
「それだけ聞くとさみしいイメージですよね。でも、PASTにはほかにも意味があるのですよ」

 と口にした木月さんの足が急に止まった。

「あ、リョウくんだ」

 平坦な声に、ビクッと体が震えてしまった。