行きはよいよい、帰りはもっとよい。

 駅前を通りかかったとき、確実に行きよりも足取りは軽かった。
 青山さんの登場には驚いたし逃げ出しそうにもなったけれど、ちゃんと話ができてよかった。ぎこちない関係から一歩前に進めたのは明日香のおかげだ。
 あとでメッセージでお礼を言おう。

 横断歩道が赤の信号を光らせ、足を止めた。

「亜弥ちゃん?」

 ふいにうしろから声がかかったので振り向くと、うさぎさんが立っていた。
 真っ白なワンピースに身を包んだうさぎさん。明るい町に明るい服のせいか、黒髪がやけに映えている。

「やっぱり亜弥ちゃんだ~」

 腕を絡めてくるうさぎさんから香水がやさしく香る。フルーツ系の匂いかな。

「こんにちは。今日はお仕事ですか?」
「そうなのよ。今から遅いランチを買いにいくところなの。亜弥ちゃんは買い物かなにか?」

 満面の笑顔を浮かべたうさぎさん。ふと、前に思ったことが頭に浮かぶ。

『うさぎさんは、きっと彼のことを好きなんだろうな』

 あのときからずっと心の奥で、ざわざわとその声が聞こえている気がしていた。
 声が聞こえるたびに『そんなことない』『いや、ありえる』と自問自答をくり返しているなんて、これまでの自分じゃありえないことだった。

 予感に無理やり蓋をして、
「友達と遊んでました」
 笑顔で言えた。

「いいなぁ。あたし、友達少ないからうらやましい」

 冗談かと思った。うさぎさんは大人だしきれいで明るい性格。たくさんの友達に囲まれている姿が、容易に想像つく。

 私の考えていることがわかったのか、
「本当だよ」
 とうさぎさんはすねた顔をした。

「早くして独立するとけっこう大変なんだ。仲が良かった友達からも嫉妬されるし、周りは結婚ラッシュだし」
「そうなんですか」

 信号が青に変わる。うさぎさんが歩き出さないので、そのまま点滅し出す信号を見送るしかなかった。

「お店の常連さんっていっても、結局はお客様だからプライベートでは仲良くできないからさー」
「意外ですね」