子供の頃から夏休みはあまり好きじゃなかった。

 暑さは体力ややる気を奪う力を持つ魔物みたいなもので、外に出てしまうとHPが削られるようなイメージだった。一日中クーラーの効いた部屋でだらだら時間を過ごすことが多く、それを注意してくるのは明日香くらいのものだった。

 なのに、リョウの『夏は好きなんだ』の言葉だけで、気持ちを改めている自分がいる。今年の夏休みは、すごいことが起きるような気さえしている私は、きっと単純なのだろう。

 リョウへの気持ちは日々加速しているみたいだった。会いたい気持ちはミルフィーユみたいに(そう)を重ねていて、逆にそのぶん、PASTへの足を鈍らせていた。

 どんな顔をして会えばいいのだろう?
 どんな会話を交わせばいいのだろう?

 好きな気持ちが募るほど臆病になっていく。そんな気分で夏休みの数日を過ごしていた。
 そんなときに明日香から『ヒマ?』というメールが来た。
 結局、終業式の日もろくにしゃべれなかったから、本当は気になっていた。
 きっと明日香は私が変わっていくことを怖がっている。

 誤解だよ。私はなんにも変わってないよ。

 そう伝えたかった。
 できるならリョウのことも相談したかったから、ふたつ返事で出かけることにした。

 ――それなのに。

 待ち合わせ場所である駅前のファストフード店。ポテトとコーラをトレイに載せいちばん奥の席まで進むと、明日香の隣には会いたくない人が座っていた。

 青山さんだった。

 また嫌な予感がムクムクと沸いてくる。緊張した顔でうつむく青山さんの前に座ると、明日香が「全員集合」とわざとらしく明るい声で言った。

「あのね、今日は三人で会いたかったんだ」

 司会を務めるつもりの明日香にわざとらしくため息をつく。こういうところは昔のままだ。
 小学生のときも、男子たちが暴走してケンカになったときや、女子で仲間外れになりかけた子がいたときは、立ち上がってクラスをまとめていた。
 『陰の学級委員長』と呼ばれるほど、トラブルが起きたときの明日香は正義感の(かたまり)と化している。

「怒らないで聞いてよ。最近の私たち三人の関係について見直したいの。ほら、ちょっと今までと違うから……」

 こういうときの明日香が気弱さを無理して隠していることも知っている。今だって、語尾(ごび)が自信なさげになっているし。
 これまでなら私は大人しく聞いていたと思う。だけど、今日は違った。

「今までってなに? べつに変わんないよ。ていうか、ふたりで会うんじゃなかったの?」

 鋭い言いかたになってしまう。べつに話し合うことなんてないし、リョウの話がこれじゃあできない。