「先生、ありがとうございます」
「は?」

 バカにされたと思ったのだろう、ジャージと同じ色になる先生の顔に、私は首を振った。

「特別扱いしてくれなくていいです」
「……ん」
「普通に接してくれてうれしいです。でも、そのペンダントは返してください。亡くなった母の形見なんです」

 手のひらを広げた私に赤ジャージは、(たぬき)に化かされたかのようにきょとんとしている。

 しばらくフリーズしてから、また舌打ちを鳴らしたあと、
「ほら」
 返してくれた。

 リョウから預かった物を取り返せるなら、嘘なんて平気でつける。なんでもやるよ、こんな幸せな気持ちをもらえるのなら。

「早く教室に戻れ」
「はい」

 歩き出すと、生ぬるい風が揺れる。
 赤ジャージが登場する前にリョウが私に言った言葉が胸に残る。
 彼は私の耳に顔を寄せて言った。

『ただ、俺が言いたかったのはさ、髪がかわいそうだなって』

 やさしくて悲しい声だった。

 三日月のペンダントを持つ手に力を入れると、チェーンの留め具が指に食いこむよう。
 切ない痛みに唇をかんでいた。

 もう、ごまかすことなんてできない。



 ――私は、リョウに恋をしているんだ。