「あるさ。だってめっちゃ傷ついてたじゃん」

 なんでもお見とおしなんだね。それくらい私が態度に表してしまっていたのか、それとも気にしてくれているのか……。

「だから謝りにきたんだ」

 リョウの言葉にお腹のあたりが急にあたたかくなった。太陽のせいじゃない、言われた言葉が熱を生んでいるのを感じる。

 わざわざ謝りに来てくれたんだ……。

「今の髪もよく似合ってる。ただ、俺が言いたかったのはさ――」
「こら、そこなにやってるんだ!」

 リョウがつぶやく声に紛れ、校舎から赤ジャージが走ってくるのが見えた。

「やばい。生徒指導の先生だ。怒られちゃう」

 私の声にリョウは持っていたヘルメットを、
「ちょっと持ってて」
 と渡すと、自分の両手を首に当てて下げているペンダントを取った。

「おい、お前ら!」

 どんどん近づいて来る赤ジャージに気を取られていると、
「はい、これ」
 リョウが手渡してくる。

「え、これって……」
「忘れ物を届けてもらった、って言えばいいから」

 エンジンがかかる音に顔をあげると、軽く右手を挙げてバイクを走らせて行ってしまう。

 黄色いヘルメットは届かぬ月。遠く去り行く背中に、なんだか泣きたい気持ちになる。

「なんだ、またお前か」

 ゼイゼイ息を切らせた赤ジャージが舌打ちをした。

「すみませんでした。忘れ物を届けに来てもらっていました」
「は? 忘れ物?」

 校舎を見ると、いろんな教室の窓から見物している顔が見えた。動物園の檻のなかにいる私を、楽しげに観察している。

 前にもこんな感覚になったことがあったっけ……。

 手のひらをそっと開いてみる。リョウがいつもつけているネックレスが太陽の光を受けて輝いていた。
 シルバーのネックレスチェーンの先に、黄色い三日月型のペンダントトップがちょこんとついている。

「なんだそれ。どこが忘れ物なんだ。お前、本当にいい加減にしろよ」

 イラつく赤ジャージが乱暴にペンダントをむしり取った。

「いいか、理事の娘だかなんだか知らんが、俺は特別扱いしない。他の生徒と同じように指導していくからそのつもりでいろ。だいたい、最近の態度はなんだ。いつから不良になったんだ」