「……なんでよ」
「今は……まだ授業中だから。明日になれば夏休みなんだよ。だから今だけは行かないでほしいの」
「青山さんには関係ないでしょ。私のことは放っておいて」

 まただ、と思った。前に青山さんは私と仲良くなりたいって言ってくれた。それなのに同じようなことでトラブっている。

「私はただ心配で……」
「それが余計なお世話なんだよ。私のことを理解しようともしないで、アドバイスなんてしないで。迷惑なんだよ」

 傷つけたくないから誰にも近寄らないようにしてきた。近づけばこうやって傷つけてしまう。そのあと、今度は自分が傷ついてしまうから。

 強引に腕を解き階段を駆けると、もう青山さんは追ってこなかった。罪悪感を見ないフリで一階へ走る。
 今は、リョウに会いたい。それだけだった。

 なんで、リョウがここにいるの?

 急がないと行ってしまいそうで、上靴のまま昇降口から飛び出した。
 まだいる!

 どんどん近くなる私に気づいたリョウが、
「おお」
 とにこやかに笑っていた。

 彼のバックに広がる青空があまりにも美しくて、近づけば消えてしまう幻みたいに思えた。

「亜弥」

 私の名を呼ぶリョウの前で、はあはあと体を折り息を整える。

「な、んで?」

 どうしてリョウがここにいるの?

「終業式が終わったとこ。かったるいからホームルームの途中に逃げ出してやった」

 いたずらっぽく笑うリョウは、たしかに白シャツに紺のズボン姿。はじめて見る制服が普段よりも幼く見せる。

「お姉さんに用事があるの?」

 リョウのお姉さんがたしかこの高校の三年生だったはず。

「いや」とリョウは肩をすくめた。

「そろそろ亜弥も学校終わる時間かな、って思ってさ。そうしたら本当にお前が走ってくるから驚いたわ」
「あ、そうなんだ」

 思ってもいないセリフに一瞬返事が遅れた。