終業式も終わり、最後のホームルームがはじまるころに登校した私を、もう誰も目で追わなかった。

(あ、来たんだ)
(来なくてもいいのにねぇ)

 実際にそんな声は聞こえていない。言われている気がしただけ。

 いつもの被害妄想を抑えて席に着くと、
「ですので、夏休み中はくれぐれも夜遊びなどしないようにしてください」
 青山さんがよく通る声で説明を続けた。
 視線はきっと私に向いている。

「俺も髪、染めようかなー」

 誰かがおどけ、ドッとクラスが笑いに満ちる。

「絶対似合わねーからやめとけ」
「えー、やってみたら? 写真送ってよね」
「誰かさんみたいに思いっきり派手にすればいーじゃん」

 ゲラゲラ笑い声は続く。

 ……つまんね。

 ギロッとにらむと、こっちを向いていたいくつもの顔がサッと逸らされた。
 あの夜から三日経ち、テストの結果もすべて戻ってきたようだ。私のぶんはあとで説教と一緒に渡されるのだろう。

 結局、学校にもPASTにも行けないまま、明日から夏休みに入る。

『前のほうが似合ってると思うけどな』
『ヘンってこと』

 何度リピート再生したかわからない、あの夜のリョウの言葉が耳元で聞こえる。
 自分だって同じ色の髪をしているくせに、よくもあんなことが言えるもんだ。だいたいデリカシーがない。
 冷めた目で空気を固まらせるリョウ、子供みたいににこやかなリョウ。どちらが本物のリョウなんだろう。

 ううん、どっちにしても私には関係がないこと。 

 私があの店にさえ行かなければ、もうリョウと関わることはなくなる。あまりにも違いすぎる私たちは、最初から出会うべきじゃなかったんだ。

 彼にあこがれ、あんなふうになりたいと思ったなんて、身分違いもはなはだしい。
 私のたいくつな人生には、シンデレラのように魔法使いのおばあさんもいなければ、かぼちゃの馬車だってないんだから。
 って、べつにリョウが王子様なわけでもあるまいし。

 ――ジジ。

 校内アナウンスがはじまるときに聞こえる、マイクの電源を入れる音が聞こえた。おしゃべりに夢中のクラスメイトには聞こえていない。