久しぶりに訪れたPASTは開店直後のせいか、木月さんしかいなかった。
 背の高い椅子に座ると、大人になった気分になるから不思議。

 そうだよ、私はもう子供じゃないんだから。

 リョウの姿はなかった。またコンビニに買い出しかな……。

「二回目のご来店ありがとうございます」
「え、覚えてくれていたのですか?」

 驚く私に、木月さんは「もちろんです」とうなずく。

「お客様のことは忘れません。亜弥さんですよね」
「すごいですね。私なんてクラスメイトの名前ですら、ちゃんと覚えていないのに」
「それは、理由があるんじゃないでしょうか?」

 理由ってどんな? 思わず眉をひそめた私に木月さんは「たとえば」と続けた。

「興味があるかないかの違いなのかもしれません」
「う……」

 さらっと鋭いことを言ってから、ハッと木月さんは口を押えた。

「余計なことを言ってしまいました。いつも口が軽いと、リョウくんに怒られているんです」
「いえ、当たってるかもしれません」

 前回と同じクランベリージュースを注文すると、
「かしこまりました」
 木月さんは仰々(ぎょうぎょう)しく礼をした。

 ピアノの音がスピーカーから程よい音量で流れている。この空間を色づけるようにそっと、さりげなくやさしく。

 それにしても、この一週間は大変だった。
 宣言どおり、テスト期間中は夕方になるとお父さんが家に帰ってきた。
 特になにを言うわけでもなかったけれど、無言の圧力に負け、部屋に閉じこもり慣れないテスト勉強をするはめになった。

 なんとか期末テストが終わった今日、家に帰ると伊予さんがいた。今日から復活したらしい。お父さんは仕事場近くのホテルに戻ったとのこと。

 一安心したのもつかの間で、いきなり家じゅうの掃除をさせられたせいでクタクタだ。

 学校ではあれから何度か髪の色について注意はされたし、上級生にからかわれたりもした。
 クラスでは私を見る目線の温度がさらに下がり、明日香ですら緊張しながら話しかけてくるみたい。
 青山さんは、いつもなにか言いたそうな顔で私を見ていた。けれど、拒否するように顔を逸らすだけの私。

 どの場所にいても息がしにくく、ずっと酸欠状態の一週間だった。髪の色を変えてから良かったことなんてひとつもない。

 だけど、リョウに見せるまでは戻したくなかった。

 やっとPASTに来られたのに、肝心のリョウがいない。