「亜弥は昔からいい子だった。お母さんが亡くなったあとも、気丈にがんばってくれていた。その反動が、今になって起きているのか?」
「違うよ」
「じゃあなんでお父さんを困らせるようなことをする?」
「…………」

 困らせたくてやってるんじゃない。私はただ、リョウみたいになりたいだけ。髪型も学校も好きなようにさせてほしい。

 でも、うまく言葉になんてできないよ。

 大人はいつだって人によって真逆のことを言う。伊予さんみたいに受け入れてくれたほうが、きっと罪悪感も育つのに。

「お父さんには……わかってもらえないよ」

 ううん、と鼻から息を吐くと、お父さんはうなだれた。長い沈黙のあと、「とにかく」と低い声でお父さんは言った。

「テストが終わるまで、なんでも屋はキャンセルしたから」
「えっ、なんで?」
「仕事を早帰りさせてもらうことにした。お父さんが朝もちゃんと起こしてやる」

 想像もしていなかった流れに、手にしていた箸を置いていた。

「そんなことしなくていい。放っておいてよ」
「しょうがないだろ。テストを受けないと、最悪留年(りゅうねん)になるかもしれないんだぞ」

 そうなって困るのはお父さんであり、私じゃない。

「……なんでも屋を頼んだのが間違いだったのかもな」
「そんなことない。伊予さんがいないと、もっとひどくなるもん」
「伊予さん?」

 残りのビールをあおるお父さんに、スッと心が落ち着くのを感じた。
 お父さんは自分が依頼しているなんでも屋さんの名前すら知らない。それはつまり、私に興味がないってこと。自分が仕事をしやすいようにしたいだけなんだ。

 無言で立ちあがる私に、
「おい、まだ話は途中だぞ」
 いつもより怒った声で言ってくる。

「こういうときだけエラそうに言わないでよ」
「学校にだけは行け。せめて高校は卒業しろ。お前はまだ子供なんだぞ。いつから不良のまねごとをするようなったんだ」

 その言葉にモヤッとした感情が一気に爆発するのを感じた。

「普段は放っておいてばかりのくせに、こういうときだけ子供扱いしないでよ!」
「亜弥……」