「校則で髪を染めちゃダメだって決められているよね? 出水さんだって知ってるでしょう?」

 怒りを抑えるような声。なんでこの子が怒ってるんだろう。

「知ってるよ」
「だったらなんでそんなことをするの?」
「そんなこと?」

 青山さんの言わんとすることがわからなくて尋ね返すと、彼女は顔を真っ赤にした。

「私はただ……出水さんを――」
「クラス委員として注意しなきゃいけないもんね」
「ちが……。でも、校則で決まってることだから……」
「あんたみたいにダサい髪型でいろって、そう言いたいの?」

 思わず出てしまったキツい言葉に、青山さんは目を見開いて絶句した。

「あ、あの……」

 気弱な声で明日香がとりなそうとするが、言ってしまった言葉は取り消せない。おもしろおかしく口笛を吹く男子をにらみつける。

 私は今、リョウのような冷たい目をしているんだ。

 彼と同化したみたいでなんだかうれしい。

「ねぇ、出水さん」

 青山さんの声が震えている。

「信じてもらえないかもしれないけど、私はただ……。出水さんと仲良くなりたいって思ってるの」

 そう言うと青山さんは小走りに教室を出ていった。

「ね、亜弥……」

 周りを気にしてかそう言う明日香を無視し、机に頬をつけて拒否を示す。
 しばらくあったクラスメイトのざわめきも、やがてチャイムの音に消えた。リョウと同化できたというよろこびも同時に消える。

 代わりに生まれたのは後悔という名の重い感情。
 青山さんは今ごろトイレで泣いているのかもしれない。


 私、なにをやっているんだろう……。