教室に一歩足を踏み入れると、すぐにざわめきが止まる。
いつものことだけれど、今日は少し違う。誰もが息を呑んでいて、しんとした時間が長く続いている。
みんなの視線を感じながら席につくと、ようやく小さなささやき声が耳に届いた。
『ねぇ、あの子……』
『マジ?』
『うわ、ありえないし』
『いきってんじゃないの?』
なんてことはない。ただ、髪を染めただけ。
わざとらしくあくびをすると、また一瞬音が消えた。伊予さんのあまりに薄い反応とは違い、確実に誰もが私の髪を見て驚いている。
なんだか気持ちが良かった。
リョウは今ごろまだ寝ているのだろうか。早く夜になればいいのに。
明日もテストだけど、関係ないよ。リョウに髪を見せたくてたまらない。
同じ髪の色にしたよ、って言ったならどんな顔をするのだろう。
「え……亜弥、どうしたの?」
声に顔を向けると、私の机の斜め前で明日香が立ち尽くしていた。
「べつに」
「でも……」
「ああ、髪を染めただけ」
「あ……うん。でも――」
それ以上言えない明日香。よほど驚いているんだろうな。
口ごもる明日香の向こう、青山さんが早足で近づいて来るのが見えた。それに気づいた何人かのクラスメイトの視線もついてくる。
明日香の隣に並んだ青山さんが、
「どういうこと?」
主語も目的語もなく尋ねた。
自分が詰問されているわけでもないのに、明日香が首を横に振る。
「あ、あの……違うの。ちょっと美容師さんが間違えたんだよ、ね?」
明日香の言葉に青山さんは眉間のシワを深くした。
「そうなの?」
クラス全員が、私がなんて答えるのか固唾を呑んでいる。まるで動物園の檻の向こうにいる客みたい。
「出水さん、どういうことか説明して」
「髪を染めただけだよ」
さっきと同じように答えると、青山さんの表情がキッと固まった。
いつものことだけれど、今日は少し違う。誰もが息を呑んでいて、しんとした時間が長く続いている。
みんなの視線を感じながら席につくと、ようやく小さなささやき声が耳に届いた。
『ねぇ、あの子……』
『マジ?』
『うわ、ありえないし』
『いきってんじゃないの?』
なんてことはない。ただ、髪を染めただけ。
わざとらしくあくびをすると、また一瞬音が消えた。伊予さんのあまりに薄い反応とは違い、確実に誰もが私の髪を見て驚いている。
なんだか気持ちが良かった。
リョウは今ごろまだ寝ているのだろうか。早く夜になればいいのに。
明日もテストだけど、関係ないよ。リョウに髪を見せたくてたまらない。
同じ髪の色にしたよ、って言ったならどんな顔をするのだろう。
「え……亜弥、どうしたの?」
声に顔を向けると、私の机の斜め前で明日香が立ち尽くしていた。
「べつに」
「でも……」
「ああ、髪を染めただけ」
「あ……うん。でも――」
それ以上言えない明日香。よほど驚いているんだろうな。
口ごもる明日香の向こう、青山さんが早足で近づいて来るのが見えた。それに気づいた何人かのクラスメイトの視線もついてくる。
明日香の隣に並んだ青山さんが、
「どういうこと?」
主語も目的語もなく尋ねた。
自分が詰問されているわけでもないのに、明日香が首を横に振る。
「あ、あの……違うの。ちょっと美容師さんが間違えたんだよ、ね?」
明日香の言葉に青山さんは眉間のシワを深くした。
「そうなの?」
クラス全員が、私がなんて答えるのか固唾を呑んでいる。まるで動物園の檻の向こうにいる客みたい。
「出水さん、どういうことか説明して」
「髪を染めただけだよ」
さっきと同じように答えると、青山さんの表情がキッと固まった。