「あー疲れた。今日はさ、ウチの坊主が風邪引いててな、来るのが遅くなってん。起きててくれて助かったわ」

 熱さもなんのその、グイとコーヒーを飲んでいる。

「お子さんっていくつなの?」
「小学一年生。やんちゃざかりやで」
「じゃあ早めに中抜けしたら?」

 そんな小さい子供がいるなら大変だろうな。鮭の切り身を口に運ぶ。ふと見ると、伊予さんがぽかんと口を開けて動きを止めていた。

「亜弥ちゃん……どうしたんや?」

 ようやくこの髪に気づいてくれましたか。

「これね――」

 姿勢を正しながら言おうとすると、
「ウチの子供のこと心配してくれるなんて驚いたわ」
 なんて言うのでガクッと崩れそうになる。

「そうじゃなくってさ――」
「いやぁ、うれしいわ!」

 こうなると伊予さんは手がつけられなくなる。言いかけた口を閉じた。

「なんかさ、亜弥ちゃんてどこかクールなところがあるやろ? プライベートな話はNGかと思っててん。それやのに、ウチの息子のことを気にしてくれるなんてうれしいやん!」

 身震いまでして喜びを表す伊予さん。
 ……いや、そうじゃない。

「前に言ったやろ? 自分を助けることができるってやつ。あれな、こういうことを言うんやで。自分自身にやさしくしてあげれば、ほかの人にもやさしくできるんや」

 興奮した伊予さんの口が止まらない。

「安心して。ウチの息子、今日は父親のところへ戻るから」
「戻る?」
「ま、いろいろあんねん」

 よくわからない会話だ。

「それより伊予さん、これ見て」

 髪の毛をふるふる揺らせてアピールする。

「ね、髪の毛気づかない?」

 本題に戻す私に、「ああ」と伊予さんが目を丸くした。

「髪形変えたんやな。色も明るくなった?」
「それだけ?」
「似おうてるで。もうすぐ夏休みやもんなぁ」

 絶対に反対されると思ってたから、予想外の反応に戸惑ってしまう。