駅ビルの十二階で、さっきからウロウロしている。
 展望(てんぼう)フロアである十五階には行ったことがあっても、この階でおりたのははじめてのことだった。

 日曜日である今日は、たくさんの人がエレベーターに乗っていたのに、十二階でおりたのは私ひとり。
 フロアにはエステやマッサージ屋、おしゃれな雑貨を売っているお店などが並んでいて、大人の女性向けの雰囲気。
 無意識に壁際に寄って歩いてしまう。

 目的の美容室である『USAGI』はフロアのいちばん奥にあった。入り口の自動ドアに店名が小さく書いてあるだけで、一見するだけでは何屋さんかわからない。曇りガラス戸のせいで店内の様子も見えないし……。
 これじゃあまるで『PAST』と一緒だ。
 リョウとの共通点に少しくじける。

 うさぎさんに言われたとおりアプリで予約をしたものの、なんだか場違いなところに来てしまった気がする。
 調べたところカット料金も高いし、今月のお小遣いが消えてしまうのは確実。

 それなのに、なんで予約しちゃったんだろう……。

 自分の恰好(かっこう)を見下ろす。無地の紺色シャツに茶色のカーゴパンツ。大人っぽい服を選んだつもりだけど、不安しかない。
 スマホを見ると、もう予約時間を過ぎてしまっていた。予約しておいて遅れるのはさすがにまずいだろう。遅刻癖はこんなところにも出ている。

 意を決して自動ドアを開けると、レモングラスの香りがふわりと鼻腔(びくう)をくすぐった。

 店内は想像以上に狭く、手前には二人掛けのソファ、奥にはカットする椅子がふたつ、そしてシャンプーをする場所があるだけだった。窓側はガラス張りになっていて、町が一望できるようになっている。

「いらっしゃい」

 スタッフルームらしきドアから顔をのぞかせたうさぎさん。今日は、目にまぶしい黄色のサマーセーターにマドラスチェックのフレアスカート姿。
 悔しいけれど似合いすぎている……。

「はい、座って座って」

 勧められるまま右奥の椅子に座った。
 鏡に映る間抜けな自分の顔から目を逸らせ、眼下に広がる景色を見た。駅前だけはビルや家が密集していて、遠くの山際には緑が広がっている。

 改めて、田舎だと思った。それも中途半端な。

「予約ありがとうね。すごくうれしかった」

 店員はうさぎさん以外いないみたい。個人経営ってこと?
 ふわっと紺色のケープを巻かれる。