「じゃあ、私……帰ります」

 そう言うしかなかった。

 歩き出す私のうしろから、
「今日のBセットはなに?」
 うさぎさんの声が聞こえる。

「気をつけてな」

 リョウの声がかぶせるように追いかけてきた。なのに、私は聞こえないフリで通りに出た。なにかに追われるように早く、速く。
 ふり返ると、もうふたりの姿はなかった。

 急ぎ足で駅前へと向かう。
 必死で歩くうちに、さっきの光景が頭でぐるぐる回り出す。
 うさぎさんは明るくて美人で、おしゃれ。素敵すぎる人なのに、欠点を探そうとする自分がいる。

 それは、リョウとの楽しい時間をジャマされたように感じたから。

 嫌な自分の姿を見てしまったみたい。知らなければすぐに忘れられたのに、嫉妬(しっと)のような感情をうまく処理できない。

 帰り道は、さっき飲んだソーダ水のせいか、胸がやけに苦しかった。