「気をつけて帰れよ」
下まで見送りに来てくれたリョウが天気を確認するように空を見た。
「あ、うん。ごちそうさまでした」
「次からは金取るから」
「うん」
「じゃ、またな」
あっさりと背を向けたリョウに、
「あっ、待って」
声をかけていた。
「なに?」
「あの……。高校、辞めたの?」
ずっと気になっていたことだった。怒るかな、と思ったけれどリョウは「いや」と首を振って毛先を揺らす。
「辞めてない。たまに行くこともあるけど。なんで?」
「私もさ、学校あんまり行けてなくって……。だから……」
実際は遅刻が多いだけなのにポロリと嘘がこぼれた。
リョウは「へぇ」と口を軽く開け、
「だから夜に出歩いてるってわけか」
納得したようにうなずいた。
「べつに遊んでいるわけじゃなくって、ただ、なんとなく……」
そもそもなんで私は夜の街を徘徊しているんだろう。
繁華街でしたいことがあるわけじゃない。街の明かりが見たいから、は明確な理由になっていない気がした。
「べつにいいんじゃね?」
くだけた口調に顔をあげると、照明のせいでリョウがどんな表情をしているのかわからない。
「高校なんて、行きたいなら行けばいい。この街だって、歩きたければ歩けばいい」
「……そうだよね」
心に灯りがともるとしたら、こういうことを言うのかもしれない。ぽわっとお腹が温かくなって、やさしい空気に包まれている気がした。
「ただし」
すっと伸ばされた手でまたパーカーのフードをかぶせられる。
「油断してると前みたいなことになるから」
「あ、うん」
「この店、七時から開いてるから。来るならもっと早い時間にしたほうがいい」
不思議な感覚だった。まだ出会って間もないのに、どうして彼の言う言葉はすんなりと心に届くのだろう。



