メニューの下には黒い文字で『深夜カフェ PAST』と印刷してあった。
「深夜カフェ……」
小さくつぶやくと、
「そうなんです」
木月さんは、目を閉じたままで音符のように軽やかに言った。
「うちは大人のための深夜カフェというコンセプトでやっています。PASTの意味はわかりますか?」
「え……。過去、ですか?」
「その意味もあります」と木月さんは目を閉じたまま小首をかしげた。
言葉を続けられずにいると、
「メニューは三つだけです」
説明を続ける。
「三つしかないなんてありえねえだろ?」
やっと姿を見せたリョウが私の前にグラスを置いた。
透明の炭酸水が次々に泡を生んでいて、間接照明のせいかダイヤモンドダストのよう。
よく見るとグラスの下部はルビー色に染まっていた。
「クランベリージュース。ストローで混ぜて飲んで」
「でも……」
「俺のおごり。いいから飲めよ」
ぶっきらぼうに言うと、リョウは両腕を組んで棚にもたれた。
不思議。さっきまで茶髪に見えていたのに、今は照明のせいか銀色に見える。
「飲んだら帰んな」
「な……」
自分から誘っておいて絶句する私に、リョウは興味なさそうにおしぼりを巻き出す。
「もうすぐ忙しくなるからさ。知らない客に会うの、めんどくせーだろ?」
「そんなこと……」
そんなこと、ある。ムッとしたままストローでグラスの液体を混ぜる。シュワシュワと炭酸が弾けている。
「なんにしても、明日も学校だろ?」
「そっちはどうなのよ」
思わず言い返す私に、リョウは肩をすくめた。
「俺は高校行ってないからさ」
「え……なんで?」
「そんなことどうでもいいだろ」
「リョウくん」
木下さんが片目だけ開けた。
「そういう言いかたはよくないでしょう。今、亜弥さんはお客さまなのですから」
「あ、そうか。失礼しました」
ぴしっと頭を下げたリョウ。なんだかバカにされている気分がぬぐえない。
「……いただきます」
そう言って口にしたクランベリージュースは夏の味がした。
「深夜カフェ……」
小さくつぶやくと、
「そうなんです」
木月さんは、目を閉じたままで音符のように軽やかに言った。
「うちは大人のための深夜カフェというコンセプトでやっています。PASTの意味はわかりますか?」
「え……。過去、ですか?」
「その意味もあります」と木月さんは目を閉じたまま小首をかしげた。
言葉を続けられずにいると、
「メニューは三つだけです」
説明を続ける。
「三つしかないなんてありえねえだろ?」
やっと姿を見せたリョウが私の前にグラスを置いた。
透明の炭酸水が次々に泡を生んでいて、間接照明のせいかダイヤモンドダストのよう。
よく見るとグラスの下部はルビー色に染まっていた。
「クランベリージュース。ストローで混ぜて飲んで」
「でも……」
「俺のおごり。いいから飲めよ」
ぶっきらぼうに言うと、リョウは両腕を組んで棚にもたれた。
不思議。さっきまで茶髪に見えていたのに、今は照明のせいか銀色に見える。
「飲んだら帰んな」
「な……」
自分から誘っておいて絶句する私に、リョウは興味なさそうにおしぼりを巻き出す。
「もうすぐ忙しくなるからさ。知らない客に会うの、めんどくせーだろ?」
「そんなこと……」
そんなこと、ある。ムッとしたままストローでグラスの液体を混ぜる。シュワシュワと炭酸が弾けている。
「なんにしても、明日も学校だろ?」
「そっちはどうなのよ」
思わず言い返す私に、リョウは肩をすくめた。
「俺は高校行ってないからさ」
「え……なんで?」
「そんなことどうでもいいだろ」
「リョウくん」
木下さんが片目だけ開けた。
「そういう言いかたはよくないでしょう。今、亜弥さんはお客さまなのですから」
「あ、そうか。失礼しました」
ぴしっと頭を下げたリョウ。なんだかバカにされている気分がぬぐえない。
「……いただきます」
そう言って口にしたクランベリージュースは夏の味がした。



