「どうも~」
漫才師のような挨拶をする女性は三十代半ばくらい?
パツンパツンの黒いスーツ姿で、前にあるふたつのボタンをなんとか留めている感じ。
ボブカットというよりも、おかっぱ頭で顔には化粧気がなく、体に反比例して顔のパーツはどれも小さかった。
耳なんて私よりも小さいくらい。
戸惑う私に女性はニッと笑う。
頬の肉がもりっと一緒にあがった。
「はじめましてぇ」
足元にはいくつものスーパーの袋。そして、真っ赤なボストンバッグがひとつ。
訪問販売の人?
ドアを閉めようとすると、つま先をドアの隙間にねじこんできた。
「出水亜弥ちゃんだよね?」
「え……」
ドアは再び開かれた。
「私は、桜井伊予。伊予ちゃんって呼んでくれればええで」
ムクムクと成長する嫌な予感は、どんどん形を作ろうとしている。
そんな私を気にもせずに、
「へぇ、広い家やな!」
ずいと玄関に入って来た伊予ちゃん、いや、伊予さん。
「え、ちょっと――」
止めようとするが、その大きな体にあっけなく押し戻されてしまった。
「これ、スーパーで買ってきてん。これが冷蔵庫に入れるぶんな。一緒に運んで」
ひょいと渡されたスーパーの袋を受け取ると、
「うわ!」
想像の何倍も重くて悲鳴をあげてしまった。
「んでな、これは冷凍庫や。あ、あかん。バッグが!」
慌てて玄関先に置きっぱなしのボストンバッグを取りにいってしまう。
「いやー。雨すごいなぁ。美女がびしょびしょやわ」
今どき、誰も言わないようなおやじギャグを言ったあと、ようやく「あ」と伊予さんは口をつぐんだ。
「自己紹介がまだやったな」
そうですとも。
伊予さんがピシッと背中を伸ばした。同時に、留めてあったスーツのボタンが漫画みたいに外れた。
「亜弥ちゃんのお父さんからのご依頼で参りました。なんでも屋の桜井伊予です」
『です』、の『す』の音を高く発音する関西弁の伊予さん。
やっぱり、悪い予感はいつだって当たってしまう。
なんでも屋を雇うことは聞いていたけれど、まさかこんなにすぐ来るなんて思っていなかった。
漫才師のような挨拶をする女性は三十代半ばくらい?
パツンパツンの黒いスーツ姿で、前にあるふたつのボタンをなんとか留めている感じ。
ボブカットというよりも、おかっぱ頭で顔には化粧気がなく、体に反比例して顔のパーツはどれも小さかった。
耳なんて私よりも小さいくらい。
戸惑う私に女性はニッと笑う。
頬の肉がもりっと一緒にあがった。
「はじめましてぇ」
足元にはいくつものスーパーの袋。そして、真っ赤なボストンバッグがひとつ。
訪問販売の人?
ドアを閉めようとすると、つま先をドアの隙間にねじこんできた。
「出水亜弥ちゃんだよね?」
「え……」
ドアは再び開かれた。
「私は、桜井伊予。伊予ちゃんって呼んでくれればええで」
ムクムクと成長する嫌な予感は、どんどん形を作ろうとしている。
そんな私を気にもせずに、
「へぇ、広い家やな!」
ずいと玄関に入って来た伊予ちゃん、いや、伊予さん。
「え、ちょっと――」
止めようとするが、その大きな体にあっけなく押し戻されてしまった。
「これ、スーパーで買ってきてん。これが冷蔵庫に入れるぶんな。一緒に運んで」
ひょいと渡されたスーパーの袋を受け取ると、
「うわ!」
想像の何倍も重くて悲鳴をあげてしまった。
「んでな、これは冷凍庫や。あ、あかん。バッグが!」
慌てて玄関先に置きっぱなしのボストンバッグを取りにいってしまう。
「いやー。雨すごいなぁ。美女がびしょびしょやわ」
今どき、誰も言わないようなおやじギャグを言ったあと、ようやく「あ」と伊予さんは口をつぐんだ。
「自己紹介がまだやったな」
そうですとも。
伊予さんがピシッと背中を伸ばした。同時に、留めてあったスーツのボタンが漫画みたいに外れた。
「亜弥ちゃんのお父さんからのご依頼で参りました。なんでも屋の桜井伊予です」
『です』、の『す』の音を高く発音する関西弁の伊予さん。
やっぱり、悪い予感はいつだって当たってしまう。
なんでも屋を雇うことは聞いていたけれど、まさかこんなにすぐ来るなんて思っていなかった。