火曜日は、高校の創立記念日。休みだというのにずっと雨の予報。
 リビングにあるソファで横になりテレビを見るともなしに眺めていると、窓を叩く雨音がひどくなった。庭の草木が肩を落として震えている。

 あの夜から五日が過ぎた。
 夜の街見学には、あれから行っていない。
 週末のせいでもあったし、雨のせいでもあった。もっと言うと、あの中年男のせいでもあったし、なによりもリョウのせいでもあった。

 テレビを消しソファでクッションを胸に抱いていると、どうしてもあの夜のことが頭に浮かんでしまう。
 最後に残る苦い感情を、もう何度もリピートしてきた。
 階段をのぼっていくリョウの背中に、本当はお礼を言うべきだったと今ならわかる。

 でも、あのときはそれどころじゃなかったし……。

 この数日同じことばかりを考え、自問(じもん)し、言い訳ばかりくり返している気がする。
 リョウは、これまで会ったことのないタイプの人。
 笑顔を見せていてもどこか陰があったように見えたし、私をバカにしているようにも思えた。本気で笑っているような瞬間もあった。
 よくわからない人だし、これから先、関わることもないだろう。

「でも、助けてもらったしな……」

 居心地が悪く何度もクッションの位置を変えていると、テーブルのスマホが着信を知らせるメロディを奏でた。
 画面には【明日香】と書かれてある。

「もしもし?」

 寝ころんだまま(あお)向けになる。

『あれから進展はあったの?』

 開口一番そんなことを聞いてくる明日香。リョウとのことを話したのが間違いだった。
 あれ以来、何度も同じことを聞いてくるけれど、まさか電話までしてくるなんて……。

「ないよ。てか、忘れてた」

 嘘ばっかり。つい数秒前まで考えていたなんて言えず、興味のないフリをする。

『え、街に行ってないってこと? リョウさんに会ってないの? なんで?』
「雨だしね」

 質問だらけの明日香にひと言で答えると、「げ」と短く声をあげている。

「あさっては曇りの予報だから行く予定だけど、あの人には会わない。てか、あの通りには入らないつもりだし」
『えー、もったいないよ』
「もったいなくない」

 そもそも、あの細い通りに入ったのが間違いだったんだ。
 次回からは絶対にあんな危ないことはしない。