「ひょっとして中区にある、星の海高校だったりする?」
「な、なんで知ってるの!?」

 もしかして占い師? 驚く私に「はは」とリョウは笑った。

「うちの姉貴(あねき)がそこの三年生だから聞いてみただけ。偶然にも当たっていたわけだ」

 言葉に詰まる私に、彼は肩をすくめた。

「個人情報は大切にしろよ」
「……なによ」

 ああ、最悪。お礼も言えず文句ばかり言ってしまっている。

「とりあえず帰るんだな。じゃあ、仕事に戻るわ」

 そのまま背を向けると、リョウは細い階段をスキップでもするように、軽々とあがっていってしまう。
 奥にある木製らしき扉を開けると、ふり返ることなく店の中へ消えた。一瞬だけ、ドアの隙間からピアノの音が聞こえた気がした。

 彼はあの店でバイトをしているってことなのだろう。

「なによ……」

 腹が立っているのはリョウにだけじゃない。夜の街見学を台無しにしたあの中年男にも。

 そして……なにもできなかった自分にも。


 帰り道はずっとうつむいたままで、月の光を見る余裕もなかった。