お礼……。
 そうだ、お礼を言わなくちゃ。
 口を開こうとしても、怒っているような顔を前に目を伏せてしまう。
 さっきとは違う怖さがあった。

 黙ったままうつむいていると、
「ま、おもしろかったからいいけど」
 と、彼は言った。

 なんなの、それ……。
 からかうような口調に思わずムッとしてしまう。

「……おもしろくなんかないよ」
「おお、しゃべった」

 目を丸くした彼がくしゃっと笑った。さっきの鋭い目がウソみたい。固まった空気をほどくかのように、本当にうれしそうに笑っている。


 ――こういう人は苦手だ。


 目線を逸らす私に、彼はひょいと手を伸ばしてきた。

「わっ」

 変な声を出してしまうのも構わず、彼は私のフードを掴むと顔にかぶせてきた。

「ここらは子供がうろつく場所じゃない。顔を隠してさっさと帰りな」

 言うだけ言うと背を向けて歩き出す彼。

 その背中を気づけば追いかけていた。
 私、なにをしているんだろう?
 気づいた彼がふり返った。

「なに?」
「……じゃない」
「聞こえない」
「子供なんかじゃない!」

 助けてもらった恩も忘れ声を(あら)げる私。だって、どう見ても同い年くらいにしか思えないのに、子ども扱いはひどすぎる。
 それでも彼は余裕のある笑みを崩さない。
 ゆっくりと両腕を組み、首をかしげると髪がまた細かく揺れた。

「じゃあ、いくつなの?」
「べつに……関係ないでしょ」
「俺はリョウ。十七歳」

 たっぷりの間でリョウと名乗った彼は私をじっと見てくる。にらめっこのような沈黙。

「……亜弥。十六」

 ぶっきらぼうに答えると、ニカッとリョウは歯を見せた。

「やっぱり年下じゃん。てことは高校一年生かぁ」
「関係ないでしょ」

 強がる私に、リョウは「ん」と肩をすくめた。