「わかった」

 端的(たんてき)に言った言葉を肯定ととらえたのか、青山さんはさらに一歩前に出る。

「うちのクラス、みんないい子ばっかだよ。出水さんと仲良くなりたいって言ってる子もいるの」
「もう、いいよ」

 仲良くなりたい子もいる、ってことは逆に言えば、仲良くなりたくない子もいるという意味だろう。

 純粋な心配こそ、こうやってかんたんに人を傷つけるんだ。

 そもそも私が青山さんを苦手なのは、こういうおせっかい。休んだ日は朝も夜も電話してくるし、この間は家まで迎えに来たりした。

「失礼なことを言うけど、出水さんは子供のころにお母さんが亡くなられたのでしょう? だから朝起きるのが――」
「本当に失礼なことを言いますね」

 思わず出た言葉に青山さんは驚いた顔をしたあと、ゆるゆる()じるようにうつむいた。

「……ごめんなさい」
「いえ、べつに」

 消え入りそうな声に、チャイムが重なる。
 青山さんの閉じた口元が、細かく震えている。

 いつだって会話をすると知らずに相手を傷つけてしまう。だから、誰とも仲良くなりたくないのに。

 生徒たちが教室に吸いこまれていく。
 これ以上ここにいると、もっと余計なことを言ってしまいそう。雨がさっきよりも激しく窓にぶつかっている。


 すごくうるさくて、苦しい。


「あの、本当は私――」

 歩き出す私に、青山さんの声はもう届かない。