「いいんだよ。亜弥がさみしくないならお父さんはうれしいから」

 私はうれしくないし。

「さみしいなんて言ったことないじゃん」

 そんな気持ち、もう忘れた。
 はじめて学校に行きたくなくなった日に決めたこと。誰かと深い関係にならなければ、さみしくなることも悲しくなることもない。
 だから、そうして生きていこう、って。

 お母さんが私の前からいなくなったときから、ずっと思っていたことだと思う。

 今日までうまくやってこれたのに、見知らぬ他人がこの家に来る?
 家事や勉強を教えてくれる?

 冗談じゃない!

 断固(だんこ)として抗議しようとする私に、なぜかお父さんは軽くあごをあげた。

「それに、遅刻も少なくなるだろうしな」
「あ……」

 やっぱり学校から報告が行ってたんだ。急に力が抜け、椅子にもたれるように座る。

「でも、でも……。私はひとりのほうがいいし」
「これはお父さんのためでもあるんだ。その人に任せておけば、お父さんも安心して仕事に専念(せんねん)できるしな」
「……もう、決定ってこと?」
「契約しちゃったからな。じゃ、お父さん寝るわ」

 話は終わり、とでも言うようにお父さんは部屋を出て行く。

「待ってよ!」
「明日も早いんだよ。亜弥、明日こそ遅刻するなよ」

 廊下に響く鼻歌も遠ざかり、またひとりになる。
 一方的に話をして寝ちゃうなんてひどすぎる。

 納得できないけれど、これまでもお寿司の日にされた話がくつがえったことはない。

「……最悪なんだけど」

 つぶやいても写真のお母さんは答えてくれない。
 食欲も失せ、お寿司に(ふた)をかぶせ冷蔵庫へ入れた。

 明日の朝にはきっと固くなっているだろうな。
 それを思うとうんざりする。


 だからお寿司は好きじゃないんだよ……。