海は秋色。

 低い雲がまばらに流れていて、青の色を濃くした海が白波を立てていた。
 砂浜の中央で立っているうしろ姿が近づく。
 白い長そでのシャツが風にふくらんでいる。踊る髪は金色にも茶色にも、私と同じ黒色にも見えた。

 砂をそっと踏みしめてリョウのうしろに立った。

 驚かせようとしたのに、
「気持ちいいなあ」
 リョウが海を見たまま口にした。

「だね」

 私も横に並ぶ。

「早かったな」
「リョウこそ」

 そう言うと、リョウは照れたように笑ってから、私の髪に視線をやった。

「似合ってるよ、すごく」
「ほんと?」
「髪もよろこんでる。亜弥はそのままでいいんだよ」

 彼が言う言葉は、まるで魔法。
 すんなりと私の頭と心に染みこんでくる。
 話したいことも聞きたいこともたくさんある。だけど、私たちにはこれからたくさんの時間が待っている。

「亜弥のお父さんって、もう家に帰ってきてんの?」
「うん。次の施設を作るって張り切ってるよ。少しくらい休めばいいのにね。そういうところ、リョウに似てるかも」
「褒め言葉だと受け取っておくよ」

 最近、リョウの目が前よりもやさしくなったと思う。そして、同じことを明日香にも昨日言われた。

「学校はどう?」

 リョウが私の手を握った。

「ちゃんと行けてる。今までがなんだったの、ってくらい早い時間に登校してるんだよ」

 まだ勉強は追いついていないけれど、きっと大丈夫。
 最近ではクラスで話ができる人も増えてきている。

「そっか、よかったな」

 リョウが私に顔を寄せる。あごをあげ彼のキスを受け止めた。

 これで三回目のキス。

 そして、四回目も。

「今度、亜弥の家に行くよ。お父さん紹介して」

 おでこをくっつけたままリョウはそう言った。