PASTは混んでいた。

 いつもの席で私と明日香、小春はAランチを食べている。

「Aランチひとつ!」

 珍しく焦っている木月さんのオーダーに、
「了解」
 うさぎさんが右指で(マル)を作った。

 昼間のPASTは窓からの日差しも明るく、夜とはべつの顔を見せている。学生や休日出勤のサラリーマンの目当ては特製唐揚げランチ。
 雑誌で紹介されてからは、あれよあれよという間に賑わいを見せている。

 手元のメニュー表はランチ用に『昼間もカフェ PAST』と書かれてあった。

「いよいよだね」

 隣の明日香がごちそうさま、と手を合わせてから言った。
 小春も「うんうん」と興奮した様子でうなずいている。

「このあと病院まで迎えに行くんでしょ?」
「小春、口にご飯粒ついてるよ」
「え、嘘」

 慌てて手を当てる小春に笑ってしまう。

「もう今ごろ家に戻ってると思うよ」

 そう言うと、ふたり揃って「えー」と不満顔。

「違う違う。待ち合わせをしているの」

 今日はリョウが退院する日。約束の時間にはまだある。なんだか、はじめてのデートみたいで緊張しちゃう。

「ねぇねぇ、亜弥」

 小春とアイコンタクトをとった明日香が顔を近づけて来た。

「小春とも言ってたんだけどね、すごく似合ってるよ」
「……ありがと」

 そっと髪を触ってみる。少し短く切って、黒色に戻した髪。もちろん、うさぎさんにやってもらったのだ。


 リョウは気に入ってくれるかな。


 ピークタイムも終わり、いつものクランベリーソーダを飲んでいると、うさぎさんが「ふう」と大きな息を吐いた。キッチンでは木月さんが洗い物に追われている。

「参った。忙しすぎだよぉ」
「ほんと、すごくはやってますよね」

 祭りのあとのように散らかっている店内を見て言うと、うさぎさんは大きくうなずいた。

「結婚資金のためと思ってランチをはじめたはいいけど、これが終わったら美容師に変身だもの。早くリョウが戻ってきてくれないと困っちゃう」