顔を向けてくるリョウに、
「私に料理を教えてくれたなんでも屋さんだよ」
 そう答えた。

「失礼します。検温です」

 看護師さんが顔を出したので立ちあがる。
 足に力が入らないまま「トイレ行ってくるね」と言い残して部屋を出た。

 そのままナースステーション前にあるソファに崩れるように座りこみ、また写真を眺める。

 なんてうれしそうな笑顔の伊予さん。

「そうだったんだ……」

 伊予さんはきっと、私を助けに来てくれたんだ。
 死ぬ運命にあるリョウを好きになった私が、これからも生きていけるように力をくれようとした。


 そして、願わくば自分の息子を助けたいと……。


 桜井というのは、伊予さんの旧姓なのだろう。
 今になって思えば、今朝お別れをしたときの伊予さんは母親の顔だった。『リョウ』って呼び捨てにしてたっけ……。

 ぼろぼろと涙がこぼれた。

 頼りがいがあって元気でにぎやかで、だけど本気で私を心配してくれていた伊予さん。
 リョウだけじゃない、私も救われたんだ。


「ありがとう、伊予さん……」


 泣きじゃくる私に、『大丈夫や』って伊予さんの声が聞こえた気がした。