(ほど)かれた手がさみしいけれど、リョウの話を聞きたかった。

「母親の夢。うちさ、俺が小さいころに離婚しててさ、だけど一週間に一回は母親のアパートに泊まりにいってた。それが楽しみだった記憶がある。でも、俺が小学一年生のとき、母親が事故で死んじまってさ」
「…………」
「夢なのにさ、うちの母親めっちゃ怒ってた。ちっちゃい目をキッとあげて『愛想がない』『高校にはちゃんと行け』『店を持つならもっと修行をしろ』とかさ、感動の再会には程遠(ほどとお)かった」

 クスクスおかしそうに笑うリョウに、私も思わず顔がほころんでしまう。

「でさ、亜弥のことも言ってた」
「私のこと?」
「ヘンなんだけど、事故のこと知っててさ。俺が助かったのは『亜弥が強く手を引っ張ってくれたからなんや、感謝するんやで』って」


 軽いめまい。


 私が戸惑っていると思ったのか、「そうそう」とリョウは目を線にした。

「母親は生まれも育ちも大阪なんだ。そんなことも忘れちゃってたけどさ」
「あの……」
「ん?」

 唾を呑みこみ息を吐く。しっかりしなくちゃ……。

「リョウのお母さんって、どんな人だったの?」
「ああ。そこにいるよ」

 リョウが私の胸元を指さした。そこには彼のペンダントが揺れている。もどかしい気持ちを抑え、震える指でペンダントを取った。

「開けてごらん」
「え……」

 よく見るとペンダントトップに小さな突起(とっき)がついている。


 まさか……まさか!?


 ――カチ。

 小さな音とともに開ければ、そこには小さな小さな写真があった。


 頬の肉をあげおかしそうに笑っている女性は――伊予さんだった。


 息が、できない。


「どうかした?」

 不思議そうな顔のリョウに「ううん」と笑みを浮かべて首を横に振った。

「そういえばさ、前に唐揚げのレシピ教えてくれたろ?」
「レシピ?」

 はなを(すす)るのをごまかしながら尋ねた。

「味噌が隠し味ってやつ。そういえば、母親が作る唐揚げって、たしかに味噌が入ってたんだよな。なんで気づかなかったんだろう。亜弥は誰に聞いたの?」