「……考えた?」

 それって、なにについて?
 カシャンとビール缶をつぶすとお父さんは目線を台所にやった。

「成長期には食生活がなにより大事だ」

 流しの横には置き去りにされたコンビニのパンがある。昨日食べたカップの容器もそのままだ。
 今度はリビングのあたりを見やるお父さん。

「掃除や洗濯も大変だろう」

 積み重なった新聞と、たたんでいない衣類が山のようになっている。散らかっていることに対しての、お父さんなりの反撃だろうか。

「でも、あと一カ月で夏休みだし――」

 言いかけた私にお父さんはなぜかニッと笑った。

「いいんだよ。お前には苦労させているから。でもな、お父さんも親らしいことをきちんとしてやりたいんだ」
「親らしいこと?」
「だからな――」

 すう、と息を吸うお父さんに、嫌な予感がぶわっと体を(おお)った気がした。それはまるで氷が一瞬で沸騰(ふっとう)する感じ。

「『なんでも屋』さんを(やと)うことにした」
「なんでも屋……」

 はじめて聞く言葉をくり返す。

 なにそれ……。

「家での困りごとを助けてくれる人らしい」
「それって……お手伝いさん、ってこと?」
「どちらかと言うと、家庭教師みたいなものらしい。家事を教えてくれて、さらに勉強まで教えてくれるんだぞ」
「なにそれ……聞いてないんですけど」
「はじめて言ったから当然だろ」

 澄ました顔でお父さんは言う。

「なんでも屋さん……って人が、この家に来るってこと? そんなの困るよ」
「料金のことなら心配しなくていい」
「そうじゃなくって――」
「住みこみじゃないのが難点(なんてん)なんだよなぁ。せっかくなら、ずっといてくれれば安心なのに」

 ダメだ、伝わらない。

「朝の起床から、夜は夕飯が終わるまで面倒を見てくれるそうだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 思わず椅子から立ちあがる私に、お父さんは「皆まで言うな」と片手を広げて前に出した。