大きなプラスチック製のマスクが彼の顔を覆っていて、たくさんの管がいくつかの機械につながれている。
 画面に表示されている数値は血圧だろうか、【82/52】の文字が点滅している。
 そばに設置されている使い捨ての防護服とビニル製の手袋を身に着けた。

「リョウ……」

 閉じた目だけがかろうじて見える。苦し気に荒い呼吸を繰り返すリョウの額に、丸い汗が無数に浮かんでいた。

 そばに置いてあるタオルでそっと拭く。不思議と涙は出なかった。
 足を骨折しているのか、左足にギプスが巻かれている。彼の右手につながっている点滴からひと粒ずつ薬が落ちていた。

「リョウ」

 呼びかける。
 そっと、そっと。

「亜弥だよ。きっと心配してくれていたよね」

 ここにいるよ。
 ここにいるんだよ。

「なんにもできなくてごめんね。でも、絶対に私、リョウが元気になるって信じてるから」

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。私たちはどこでなにを間違えたの?

「だから約束。リョウも絶対にあきらめないでね」

 神様に願う。どうか、彼を助けてください。
 力なく開かれた指先を握った。

「あなたが好きだよ。大好き」

 返事がなくても、きっとリョウに届いていると思った。

 部屋を出るとふたりのもとへ戻る。

 私よりも泣きじゃくるふたりに、「大丈夫」と言えた。


 しっかりしなきゃ。私がしっかりしなくてどうするの。



 必死で自分に言い聞かせ、病院をあとにした。