「ありがとう。でも、次からはお寿司以外にしてよ。お父さんはワンパターンなんだよ」
「たしかに芸がないよなぁ。わかった、任せとけ」

 ようやく笑ったお父さんにホッとしたときだった。ドアをノックする音に続いて、明日香と小春が顔を出した。

「こんにちは」

 笑顔の明日香とは対照的に小春は顔をゆがめている。

「おお、明日香ちゃん。久しぶりですね」

 すくっと立ちあがるとお父さんはふたりの元へ。脇を抜けてきた小春が私の顔を見て「ごんにぢば」と濁音(だくおん)だらけの挨拶をし、涙をこぼした。

「大丈夫だよ。もう、大丈夫」
「……うん」

 隣に座ってもらい、お寿司を勧めた。小春は玉子を指したので、それを食べさせてあげる。ようやく少し笑ってくれた。

 そうして小春はその場で立ちあがると、
「私たちふたりで亜弥を家まで送りますから」
 丁寧にお父さんに頭を下げた。

「え、でも……」
「おじさんはお仕事が忙しいと聞きました。ですのでこちらはお任せください」

 はっきりと言う小春。さすがクラス委員だ。

「いや、俺も行くよ」
「大丈夫です。女子同士、積もる話もあるんです。もちろん、タクシー代はいただきますけれど」
「そうそう。おじさんも仕事がんばらないと。もうすぐオープンするんでしょう?」

 明日香の援護(えんご)射撃(しゃげき)に、お父さんは「うーん」と私を見たので、笑顔でうなずいてみせた。

 渋々帰っていくお父さんを見送り、私たちは並んでベッドに腰をおろした。取り合ったお寿司はわずかばかりのガリが残っているだけ。

「ありがとう」

 ふたりにそう言うと、うれしそうにほほ笑んでいる。

「リョウの具合、知ってる?」

 首を振るふたり。隣の小春が「それでね」と口にした。

「明日香と話し合ったの。これからどうするか」
「うん」

 うなずくと、明日香がひょいと顔をのぞかせた。

「このまま帰ってもいいけど、気になるでしょ?」
「リョウのこと? 気になるよ。だって……」
「覚悟ができているなら協力するよ」

 まっすぐ私を見つめる明日香に「覚悟?」と聞き返す。

「あたしたち考えたの。ね?」

「うん」と小春が受け継ぐ。

「現状を知らないと、きっと亜弥は気にしちゃう。リョウさんに会いに行ったらどうかな?」

 ドクンと胸が跳ねた。

「ひょっとしたら、亜弥がもっと傷つくかもしれない。だから亜弥に選んでもらおう、って」

 明日香の言葉に、私はドアのあたりに視線を逃がす。小春が私の肩に手を回した。

「ひょっとしたらさ……想像以上に怪我が大変なことになっているのかもしれない。それでも……会いたい?」

 会いたい。会いたくてたまらない。

 考えるまでもなく、私はうなずいた。