次に目が覚めたとき、部屋は夕焼け色に染まっていた。
 また夢なのかも、としばらくはオレンジが濃くなっていく天井を眺めていた。額に汗が流れているのに、熱でもあるのか、体はしんと冷えている。

 音が聞こえ顔を右に向けると、ベッド横の丸椅子に座った明日香が、ハンカチを顔に当てて泣いていた。小さな肩が細かく震えている。
 声を出さないように必死でこらえているのだろう。けれど「……っぐ」と時折しゃくりをあげている。

 私のせいで泣いているんだ……。

 さっきはひどく混乱してしまった。あんなにあった頭痛は嘘みたいに消えていた。
 右手を動かし、親友の膝に置くとビクッと体を震わせた。

「どうして泣いているの?」
「亜弥……」

 信じられないとでもいうような表情の明日香が、
「亜弥っ!」
 声をあげ抱きついてきた。
 号泣する明日香を不思議な気持ちで抱きしめていた。

 あきらめ、という名の悲しみ。

 孤独、という名の絶望。

 どれも、このあとの衝撃を少しでもやわらげるための言葉。
 ようやく落ち着いた明日香が「無事でよかった」とはなを啜った。
 体を起こしてもらうとき、小さな痛みが体中で騒いでいた。顔や手足にも、包帯を巻かれている様子はなかった。

 リョウのことを聞きたい。だけど私は「うん」と答えていた。

「大丈夫だよ。ねんざと擦り傷だけだって」

 涙声で言う明日香に、
「そう……」
 と。

 リョウのことを聞くのが怖い。姿を現した悲しみや絶望は、ひとりじゃ抱えられないほど大きくなっていた。
 あの夢、そしてお父さんの態度。いい予感なんてまったくなく、あるのはこの先続くであろう悲劇の前触れ。

「小春は今おばあちゃんの家に行ってて、だけど、すごく心配してる。さっきも電話あったよ」
「うん」
「痛い?」
「大丈夫」

 感覚がマヒしているみたい。ぜんぶがまだ夢のような感覚。

「なにが……あったの?」

 やっとその質問をすることができた。
 キュッと頬を引きしめた明日香が、私の手を包んだ。