「亜弥」

 彼が私を呼ぶ声が好き。まあるくて温かくて、そしてやさしい声。
 聞こえているよ。だってこんなにそばにいるんだから。

「亜弥」

 私にだけ見せてくれる笑顔が好き。普段は怒っているみたいに口を尖らせているのに、ふたりのときは本当にうれしそうに笑う。

「なぁ、亜弥」

 なに?

「好きなんだ」

 知ってるよ。でも、もう一度言って。今度はちゃんと笑顔で答えるから。

「時間だね」

 空を見あげ、リョウがまぶしそうに目を細める。
 ここは、どこなの? どうして声が出せないの?
 まっしろな世界に立つリョウ。すぐそばにいるのに、遠くに感じてしまって私は悲しくなる。

 リョウ、笑ってよ。どうしてそんな苦しげな顔になっちゃうの?

「さよなら」

 悲しい笑みでリョウは言った。

 どうして?

「もう行かなくちゃ」

 背を向けてしまうリョウの顔が見えない。声も聞こえない。

 行かないで。
 歩いていくリョウの髪が金色に流れている。
 お願い、私を置いていかないで。
 ひとりになりたくない。やっと気持ちをたしかめあえたのに、どうして?

「リョウ!」

 やっと出た声は消えていく背中には届かない。追いかけたいのに、足の裏が地面に引っついているみたい。

 もう、ここにリョウはいない。あんなに白一面だった世界は、光を失ったみたいに翳りゆく。

 暗い世界では、もうリョウの姿は見えない。


 気がつけば、いつも私はひとりぼっち。