疑問を胸に近づいていくと、
「あ、来た!」
 門からひょっこり顔を出したのは、小春だった。

 予想もしないことが起きると、人はフリーズするらしい。ビクッとしたまま立ちすくんでいると、小春の顔の上に明日香が現れた。

「もう、遅いよ」
「え……なんで?」

 まだ激しく鼓動を打つ胸を抑えて近づくと、
「いいから乗って。おじさん疲れてるんだってさ」
 明日香が先に後部座席に乗り、私の手を強引に引っ張った。

「お父さん、どうしたの?」

 バックミラー越しのお父さんと目が合う。

「いや、明日香ちゃんから『緊急事態だ』って連絡があったんだよ。亜弥、なんかあったのか?」

 逆に質問され返事に窮していると、
「説明はあとでしますから。おじさん、早く出してください、お願いします」
 明日香がそう言い、
「よろしくお願いします」
 最後に乗りこんだ小春がバックシートで深々と頭を下げた。

「了解しました」

 しょうがない、と肩をすくめてお父さんは車を発進させた。

「どういうこと? え、ずっと待ってたの?」

 左にいる明日香に聞くと、「そうだよ」なんて当たり前のように言う。
 右のシートに姿勢よく座る小春がくすっと笑った。

「亜弥と電話してる間、ずっとふたりでメッセージのやり取りしてたの。で、とりあえず集合しようってことになったんだ」
「だって、親がうるさいでしょう?」
「友達のピンチにそんなこと言ってられないっしょ。おじさんの連絡先知っててラッキーだったよ。じゃなかったらタクシー呼ぶところだった。おじさん、ありがとう」
「いやいや」

 かわいらしい声で運転席に声をかける明日香に、すっかりお父さんは上機嫌になっている。一体、どうなってるの?

「どこへ行くの?」

 もう一度聞いたそばからなんとなくわかった。車は駅前を抜け、海への道を走っていたから。