「俺が夢をかなえるまで、そのペンダント持っててくれる?」

 そのときに私は夢を持つことができているのかな。胸を張って生きているのかな。

 きっと無理だとあきらめてしまう。

 私はリョウにふさわしくないし、やがて彼を失望させてしまうだろう。
 悲しみの波がざぶんと押し寄せてくる。波がささやく。私の存在がリョウを苦しくさせ、リョウの存在が私を苦しめているんだよ、と。

 伊予さんが言った『強く引っ張って』の意味はこれだったのかもしれない、と。
 片想いを捨てるには、強引にでも引き剥がさないといけない。
 そのほうがリョウも私も苦しくない。

 そういう意味だったの?

 チェーンを指で外す私を、リョウはどんな顔で見ているのだろう。
 もう、見ることもできない。

「これ、やっぱり返すよ」

 なんでもない口調を意識する。

「なんで?」
「もうPASTに行かないと思うから」
「……は?」
「九月からはお父さんも家に戻ってくるし、忙しいんだよね」
「……へぇ」

 ざぶんざぶんと瞳にたまる涙を夜が隠してくれる。
 私にはリョウのそばにいる資格なんてない。

「だから、これ返す。夢がかなうように祈ってるね」 

 涙が頬にこぼれても、あくまでおどけた口調を作る。暗い空がきっと涙を隠してくれているはず。

 ――好きだよ、好き。

 好きだからこそ、リョウのジャマをしたくなかった。ダメな自分をこれ以上見せたくなかった。

「そっかあ……」

 隣でつぶやいたリョウが立ちあがった。気づかないフリで顔を背けてしまう。

「できればさ、俺は亜弥に持っててほしい。どうしても嫌なら、次に会ったときに返してくれればいいから」

 さみしげな声に、もう顔も見られない。
 気づくとリョウが砂を踏みしめる音が耳に届いた。

 彼が去っていく足音を耳に焼きつけながら目を閉じた。すぐに足音は波の音に紛れていく。

 ――リョウを傷つけてしまった。

 立ちあがって歩き出すと、砂が靴底で音を立てた。リョウが恋しいと泣いているみたい。