「そうなんだね」
「もし、亜弥に夢が見つかったなら、俺が応援してやるからな」
「……うん」

 自分のことで精いっぱいのはずなのに、そんなことを言うから私はもっと好きになる。

「ほら、星が見える」

 リョウが指す果てしない宇宙にいくつかの星が光っている。さっきまで薄く浮かんでいた月が黄金色に主張をはじめている。代わりに隣にいるリョウの姿は、どんどん闇に紛れていくみたい。

「今日は夜の海を亜弥に見せたかった。すげー落ち着くだろ?」
「ほんとだね、きれい」

 誰もいなくなった浜辺に波の音がしている。

 それから私たちは黙って海を見ていた。

 そうして私はまた伊予さんのことを思い出す。
 昨日の言葉を、悲しみをがまんしているような顔を、あの重い空気を。

「そのペンダントさ、母親の形見なんだ。木月さんがしゃべったんだろ?」

 私の胸元あたりを見てリョウが言った。

「……うん」
「俺が小さいころ、母親、死んじゃってさ」

 同じだ、とうなずく。

「あんまり昔すぎてほとんど記憶が残ってないんだよな」

 それも同じ。
 同じ境遇だから惹かれたのかもしれない。胸元で揺れるペンダントに触れると、ひんやりと冷たかった。

「リョウ」

 名前を呼ぶ。

「ん?」と答える横顔は、そばにいるのに夜に紛れそうなほど輪郭が薄くなっている。

「リョウは恋をしないのでしょう? それなのにどうして私を誘うの?」

 ふたつの質問を言ってしまってからすぐに後悔する。

「ごめん。なんでもない」

 なんて、今さら言っても遅い。リョウは逡巡(しゅんじゅん)するようにあたりを見てから、

「夢があるんだ」
 と苦しげな声を出した。

「夢をかなえるまで恋愛はしないと決めていたんだ。でも、亜弥が現れた」
「……私が?」
「恋をしているのかも、って自分でも思う。だけど、今は夢をかなえたいとも思う。自分でもよくわからないことしてるし、言ってるってわかってる。ほんと、ごめん」

 リョウも同じように混乱しているんだと知った。