記憶を断ち切るように、横断歩道の信号が大きなメロディを流す。
 ふう、と息を吐いて顔をあげると、リョウが不思議そうな顔を浮かべて立っていた。

「寝てんのかと思った」
「あ……」
「俺のほうが寝不足のはずだけどな」

 ニヒヒと笑ったリョウが隣に座る。

「寝て、ない、よ」

 数日ぶりに会えたうれしさと、距離がまた遠くなったような錯覚。ぎこちなさが前面に出てしまう。

「今日……バイトだったの?」
「普通日曜日はないんだけどさ、工期(こうき)が遅れてるらしくて、急に呼び出されてさっきまでやってた。あー疲れた」 

 麻のシャツにジーパンの彼は、夏に似合っている。

「これからどうするの?」

 私の問いに、リョウは鼻をポリポリと()く。

「もちろん遊びにいくつもりだけど?」
「今から?」
「そ、今からが俺たちの活動時間だろ?」

 ポンポンと軽く頭を叩くリョウの手を、うざったそうに振り払った。わざとだけど。

 気にした様子もなく、
「行くか」
 リョウは立ちあがる。

「どこ行くのか聞いてないんですけど」

 この間の告白めいた言葉の続きも聞けていない。

「どこって、海に決まってるじゃん」

 当たり前のように言ったリョウが私の手を掴んだ。あまりにも自然な流れに、聞き返すこともできずに立ちあがった。

「もう夏休みも終わりだし、やっぱ最後は海でしょー」

 うれしそうに笑うリョウに、さっきまであった心配事は消えてしまったみたい。意識しなくても笑顔になってしまう。

 泣いたり怒ったり笑ったり。
 最近の私は、まるで無防備だと思った。


 そして、そんな自分になれたことがうれしかった。