夏の苦しさがまだ体に残っているみたい。セミの声が重なって、ひどく頭が痛かったあの日。

「なにか起きたってすぐにわかったの。すごく怖くて、だけど、私は知っていた。私のせいだ、って。私が、私が会いに行かなかったからお母さんは死んじゃったんだって……」
「亜弥ちゃん」

 強く伊予さんが抱きしめてくれた。

「違う、違うって。お母さんはそんなふうには思ってへんって」
「違わないよ。だって、行けば会えたのに、きっとお母さんは待っててくれたのに……」

 嗚咽(おえつ)が止まらない。

「そんなことない。ウチも母親やからわかるねん。絶対に亜弥ちゃんのせいなんかやないって!」

 ぎゅうぎゅう力をこめる伊予さんの体は、湯たんぽみたいにあったかくて、こんな暑い日なのにちっとも嫌じゃなかった。

 そのときだった。これまであった点と点が一気につながったように思えた。もともと担当じゃなかった彼女が私の家に来たのは……。

「伊予さん……」
「なんや?」

 涙声の伊予さんに「苦しい」と言うと、伊予さんはバッと両手を離した。

「ごめんごめん。つい力入れすぎてもうた」

 ハンカチで目じりをぬぐうその顔を見た。

「ひょっとして……伊予さんって、私のお母さん、なの?」

 高校生になってもうまく生きられない私のために、お母さんが伊予さんの姿を借りて……?

 けれど、その推理は「ぶはっ!」と()き出す伊予さんによって否定される。

「そんなわけないやん。真剣に話してたのに、やめてや」

 ……だよね。映画やアニメじゃないんだから。急に恥ずかしくなって、涙が尻切れトンボで止まった。

「ちゃうねん。ウチが前に言ったこと、覚えてる?」
「前に言ってたこと? 自分を助けられるようになる、って……」

 伊予さんは「そうや」と言った。声のトーンが急降下している。横顔の伊予さんは、机の一点をぼんやりと眺めている。すぐに眉間にシワを寄せるとブンブンと首を振っている。

「ほかにも言ってたよね? 『その人を助けるには、自分の命も危険になる』とかって……。そうだ、『それでも行動に移せるのか?』って聞いたよね?」

 早口になってしまう私に伊予さんは「ううう」とうなった。

「どうしよう。ウチ、まだ迷ってんねん」
「なにを?」
「全部や!」