私の話を聞き終わったとたん、明日香はばたんとテーブルに突っ伏してしまった。
そのまま微動だにせず固まってしまう。
「あの……明日香?」
「待って……。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、時間を、ください」
混乱しているのか丁寧な言葉になっている。
お父さんが仕事に戻ったのは、あれから三時間後のこと。結局、乾燥までしていったためずいぶん時間がかかった。
お父さんはまだ話をしたそうだったけれど、私はそれどころじゃない。なんでもないような顔で、今か今かとお父さんの出発を待った。
明日香には途中で『緊急事態』のメッセージを送っておいたので、入れ替わりですぐに家に来てくれた。
要領を得ない私の話につき合ってくれたあと、目の前で石像になっている。
テーブルの上にはすっかり氷が溶けてしまったアイスコーヒーがふたつ。
こんな話、私でも意味がわからない。どんなに考えても、答えの出ないクイズを解いているようで、頭の中が渋滞している。
「つまり……」
ゆっくりとした動きで顔をあげた明日香が言葉を区切った。これまでの人生でいちばん集中してその口元を見つめる。
「――つまり?」
「これは、事件なんじゃないの?」
「……事件?」
「そう……そうだよ!」
椅子を鳴らして立ちあがった明日香が、バンと机に両手を置いた。カランとグラスが音を立てた。
「もともとこの家に来るはずだった、なんでも屋の倉井みなとさんはどこかに監禁されているのよ。実行犯はそう……その桜井伊予さんっ」
冗談かと思ったけれど、明日香の目は真剣そのもの。自分の推理に納得したようにうなずきながら台所を動き回ったかと思うと、ハッと片手を口にやった。
その目がわなわなと見開かれる。
「ひょっとして、倉井さんはもう殺されているのかも!? どうしよう、大事件じゃないの!」
アワアワと再び台所を動き回る明日香。なにこれ……。
「違うよ。伊予さんはそんな人じゃないし。そもそも、そんなことをしてなんの得があるのよ」
「殺人の動機は痴情のもつれや怨恨……もしくは、保険金?」
嫌味でもなんでもなく、明日香を頼ってよかったと思う。
突拍子もない推理のおかげで逆に絡まった糸がほどけるみたいだ。
そのまま微動だにせず固まってしまう。
「あの……明日香?」
「待って……。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、時間を、ください」
混乱しているのか丁寧な言葉になっている。
お父さんが仕事に戻ったのは、あれから三時間後のこと。結局、乾燥までしていったためずいぶん時間がかかった。
お父さんはまだ話をしたそうだったけれど、私はそれどころじゃない。なんでもないような顔で、今か今かとお父さんの出発を待った。
明日香には途中で『緊急事態』のメッセージを送っておいたので、入れ替わりですぐに家に来てくれた。
要領を得ない私の話につき合ってくれたあと、目の前で石像になっている。
テーブルの上にはすっかり氷が溶けてしまったアイスコーヒーがふたつ。
こんな話、私でも意味がわからない。どんなに考えても、答えの出ないクイズを解いているようで、頭の中が渋滞している。
「つまり……」
ゆっくりとした動きで顔をあげた明日香が言葉を区切った。これまでの人生でいちばん集中してその口元を見つめる。
「――つまり?」
「これは、事件なんじゃないの?」
「……事件?」
「そう……そうだよ!」
椅子を鳴らして立ちあがった明日香が、バンと机に両手を置いた。カランとグラスが音を立てた。
「もともとこの家に来るはずだった、なんでも屋の倉井みなとさんはどこかに監禁されているのよ。実行犯はそう……その桜井伊予さんっ」
冗談かと思ったけれど、明日香の目は真剣そのもの。自分の推理に納得したようにうなずきながら台所を動き回ったかと思うと、ハッと片手を口にやった。
その目がわなわなと見開かれる。
「ひょっとして、倉井さんはもう殺されているのかも!? どうしよう、大事件じゃないの!」
アワアワと再び台所を動き回る明日香。なにこれ……。
「違うよ。伊予さんはそんな人じゃないし。そもそも、そんなことをしてなんの得があるのよ」
「殺人の動機は痴情のもつれや怨恨……もしくは、保険金?」
嫌味でもなんでもなく、明日香を頼ってよかったと思う。
突拍子もない推理のおかげで逆に絡まった糸がほどけるみたいだ。