店の外は、夜だというのにまだ蒸し暑かった。

「じゃ、気をつけて」

 下まで見送りに来てくれたリョウの髪が外灯でオレンジに染まっている。

「ごちそうさまでした」

 口々にお礼を言い歩き出す。彼の別れ際はいつだってあっさりだから。
 あっという間だったけれど、濃厚(のうこう)な時間だったな。
 名残(なごり)()しく振り返ると、リョウが店に戻ろうと背を向けたところだった。

 あれ……?

 思わず足を止めたのは、リョウが階段に片足をかけたポーズで固まっていたから。なにか考えごとをしているのか、じっと動かない。

 どうしたのだろう……。

 不思議に思っていると、ようやくフリーズを解いたリョウがこっちを振り返った。と同時に、駆けて来たから驚いてしまう。
 明日香と青山さんは「おいしかったね~」とはしゃいでいて気づかない。

 どんどん近づくリョウに、
「どうしたの?」
 と尋ねる。

 が、彼は私の横を通り過ぎて、ようやく気づいた明日香と青山さんの行く手を阻むように立ちふさがった。

「あのさ、ふたりにお願いがあるんだけど」

 その声はひどくぶっきらぼうだった。
 顔を見合わせる明日香と青山さんに私も近づく。一体どうしたのだろう……。

 リョウは「あー」と、空に顔を向ける。それから、再度ふたりを交互に見た。

「三人が仲良しなのは知ってるけどさ、これからは、俺にもたまに亜弥を貸してほしい」

 しん、とした静けさが訪れる。明日香と青山さんがまた視線を合わせているうしろで、今度は私がフリーズ。
 リョウの言った意味を考える。
 考えて、考えられなくて、思考がミキサーでかき混ぜられたみたいにぐちゃぐちゃ。

「わかりました」

 明日香が言った。

「お願いします」

 青山さん。

「ちょ、ちょっと待って!」

 ふたりの間に割りこんだ。

「貸す、って……? え、どういうこと?」

 交互に顔を見ると、明日香と青山さんは笑いがこらえられないといった様子で、肩を震わせている。

「そういうこと」

 リョウが余裕のある笑みを浮かべている。私だけがこの話についていけてない。