「あ、ごめん。なんでもない」
「なんでもあるだろ。ちゃんと言えよ。味噌って?」

 みんなも私をきょとんとして見つめているので、観念して話をする。

「この間、唐揚げのレシピを教えてもらったばかりなの。肉の下味に少し味噌を入れるとコクが出るんだって」
「え、亜弥すごいじゃん」

 反応したのは明日香。

「もうそんなに料理できるようになったんだね」

 感動の言葉に必死で首を振る。余計なことを言うんじゃなかった。

「違うって。まだ数種類くらいしか頭に入ってないもん」
「でも、味噌なんて普通考えないよ。なんかあたしも料理しなくっちゃ」

 ムードメーカーの明日香がいたおかげで、その後の会話も和やかに進んだ。リョウは「味噌か」とつぶやいてから、キッチンにこもって出て来なくなったけれど。

 食べ終わると、いつものクランベリージュースが木月さんによって出される。慣れない乾杯をして、三人で声に出さずに笑いあった。

 ギイと音がして振り返ると、店のドアが開いた。 

「こんばんは」

 ひょっこり顔を見せたのは、うさぎさんだった。

「きゃー。亜弥ちゃん久しぶり!」

 私に抱きついてくるうさぎさん。仕事帰りなのだろう、ブルーのワンピース姿がすごくきれい。

「あ、お友達連れてきてくれたんだ。こんばんは、うさぎです。今日はありがとうね」

 明るい声になんだかお腹の底からうれしくなった。私の知っている人たちが一堂に会するなんて珍しすぎる。

「いらっしゃい」

 いつもと違い、クールに挨拶する木月さん。私はふたりがつき合っていることを知っている。今の木月さんは確実に『虚』を演じているんだ。

「ふふ」

 笑いがこぼれる私を木月さんは不思議そうに見ていた。


 実と虚の意味はわからなくても、楽しいのは事実だった。