「理人と私は姉弟なんだけど、父親が違ってね。理人の父親はドイツ人だから、あの子はハーフで、私は純日本人なの」
「え……?」
言われてみればたしかに、理人さんは彫りの深い外国人のようなはっきりとした顔立ちで、髪や瞳の色が少しだけ薄かった。
あれは外国の血が入っているからなのかと納得して頷くと、暖花さんは思い出したように話を続けた。
「理人に初めて会ったのなんて、私が中学生のときよ。いきなり海外に弟がいるって聞いてね」
聞けば理人さんも今の私と同じように、突然この家に住むことになった過去があるということだった。
それは暖花さんが中学2年生のときのことらしい。
「理人はドイツで父親と暮らしていたらしいんだけど、その人が病気で亡くなったから、母さんが引き取るって言い出して」
「……びっくりしましたか?」
「そりゃあね。でも普通驚くでしょ? 私も多感な時期だったから、変にぐれたりしちゃって。でもね、ひと目理人を見てから、そんなことどうでもよくなっちゃったのよ」
ショートカットの髪の毛を耳にかけながら、暖花さんがくすくすと笑う。
「髪も目も今より色が薄くて、自分の弟とは思えないくらいかわいくてね。日本語もほとんど話せずに不安でいっぱいな姿を見たら、私が守ってあげなくちゃって自然に思えたの」
「今ではあんなに大きくなって、なぜか女性のような言葉を遣う、少し変わった弟になっちゃったけど」と、懐かしそうに目を細めて言う暖花さんは、どうやらもうそのことを気にしてはいないようだ。
「うちの母さんは奔放な人なのよ。子供が二人もいるっていうのに、一度だって結婚したことがないの。私の父親となんて不倫で……って、小学生にこんなことを話したらだめね」
苦笑いをする暖花さんに、私はそれ以上の深い話を聞くことはしなかった。
彼女は途中で話すのをやめてしまったが、私にもお父さんがいなかったから、なんとなく分かったのだ。
どこの家も多かれ少なかれ、何かしらの事情を抱えているのだろう。
とびきり幸せに見えるこの家族だって、いろんなことを乗り越えて今があるのかもしれない。
「つまり今さら家族が一人増えたくらいで、私たちも驚いたりしないの。それどころか、こんなにかわいい子が来てくれて嬉しいわ。だから雨音ちゃんも、思うままに過ごしてくれていいのよ」
屈んで私と目線を合わせてくれた暖花さんは、その優しい手で私の頭を撫でてくれた。
くしゃくしゃと音を立てる髪の毛がくすぐったくて、胸の奥や目尻がじんと熱くなっていく。
そんな暖花さんの言葉に同意するように、キルシェが私のくるぶしに擦り寄った。
嬉しい。
そう言ってもらえるのなら、ずっとここにいたくなってしまう。
本当は早く、お母さんたちのところへ行かなければならないのに。
そんな、心地良さと迷いの狭間にいると。
「雨音ちゃーんっ!」
廊下の方から、パタパタとした軽快な足音と、楽しげに私を呼ぶ声が聞こえた。
この声は、理人さんのものだ。
「ねぇ! 母さんから聞いたんだけど、雨音ちゃんってお花が好きなんですって?」
ドアの隙間から顔を出した理人さんは、きらきらとした笑顔で私に尋ねた。
その問いに頷くと、理人さんの顔がますます明るくなる。
「ふふっ、そう! そうなのね! それなら案内したいところがあるの!」
「ですって。付き合ってあげてくれる?」
「え……?」
言われてみればたしかに、理人さんは彫りの深い外国人のようなはっきりとした顔立ちで、髪や瞳の色が少しだけ薄かった。
あれは外国の血が入っているからなのかと納得して頷くと、暖花さんは思い出したように話を続けた。
「理人に初めて会ったのなんて、私が中学生のときよ。いきなり海外に弟がいるって聞いてね」
聞けば理人さんも今の私と同じように、突然この家に住むことになった過去があるということだった。
それは暖花さんが中学2年生のときのことらしい。
「理人はドイツで父親と暮らしていたらしいんだけど、その人が病気で亡くなったから、母さんが引き取るって言い出して」
「……びっくりしましたか?」
「そりゃあね。でも普通驚くでしょ? 私も多感な時期だったから、変にぐれたりしちゃって。でもね、ひと目理人を見てから、そんなことどうでもよくなっちゃったのよ」
ショートカットの髪の毛を耳にかけながら、暖花さんがくすくすと笑う。
「髪も目も今より色が薄くて、自分の弟とは思えないくらいかわいくてね。日本語もほとんど話せずに不安でいっぱいな姿を見たら、私が守ってあげなくちゃって自然に思えたの」
「今ではあんなに大きくなって、なぜか女性のような言葉を遣う、少し変わった弟になっちゃったけど」と、懐かしそうに目を細めて言う暖花さんは、どうやらもうそのことを気にしてはいないようだ。
「うちの母さんは奔放な人なのよ。子供が二人もいるっていうのに、一度だって結婚したことがないの。私の父親となんて不倫で……って、小学生にこんなことを話したらだめね」
苦笑いをする暖花さんに、私はそれ以上の深い話を聞くことはしなかった。
彼女は途中で話すのをやめてしまったが、私にもお父さんがいなかったから、なんとなく分かったのだ。
どこの家も多かれ少なかれ、何かしらの事情を抱えているのだろう。
とびきり幸せに見えるこの家族だって、いろんなことを乗り越えて今があるのかもしれない。
「つまり今さら家族が一人増えたくらいで、私たちも驚いたりしないの。それどころか、こんなにかわいい子が来てくれて嬉しいわ。だから雨音ちゃんも、思うままに過ごしてくれていいのよ」
屈んで私と目線を合わせてくれた暖花さんは、その優しい手で私の頭を撫でてくれた。
くしゃくしゃと音を立てる髪の毛がくすぐったくて、胸の奥や目尻がじんと熱くなっていく。
そんな暖花さんの言葉に同意するように、キルシェが私のくるぶしに擦り寄った。
嬉しい。
そう言ってもらえるのなら、ずっとここにいたくなってしまう。
本当は早く、お母さんたちのところへ行かなければならないのに。
そんな、心地良さと迷いの狭間にいると。
「雨音ちゃーんっ!」
廊下の方から、パタパタとした軽快な足音と、楽しげに私を呼ぶ声が聞こえた。
この声は、理人さんのものだ。
「ねぇ! 母さんから聞いたんだけど、雨音ちゃんってお花が好きなんですって?」
ドアの隙間から顔を出した理人さんは、きらきらとした笑顔で私に尋ねた。
その問いに頷くと、理人さんの顔がますます明るくなる。
「ふふっ、そう! そうなのね! それなら案内したいところがあるの!」
「ですって。付き合ってあげてくれる?」