過去と向き合うために。
二人を忘れないために。
そう告げると、理人さんは手を組み、そのまま押し黙ってしまった。

彼は私のためにどんな判断をすべきか、たくさん考えてくれているのだろう。
その様子を、目を逸らさずに見つめる。
すると、やがて根負けしたかのように、理人さんが口を開いた。

「二人のお骨は、納骨堂というところに安置させてもらってるの。アタシも姉さんも母さんも、折りに触れてお参りにいってるわ」

「私も連れていってくれる?」

「ええ。でも約束して?」

組んでいた手を解いた理人さんは、そのまま私の両手を握った。
その手は私のものより、ずっと大きく、熱い。

「無理はしないこと。辛くなったら、絶対に我慢しないでアタシに言うこと。それが守れるなら」

「うん。絶対。約束する」

強く頷くと、理人さんは少し悲しげに笑った。
きっと彼は、とても不安に思っているのだろう。

二人と向き合うことで、私の中の何かが変わる確証はない。
それどころか、余計にトラウマを深めてしまう可能性だってあるのだから。
けれど、理人さんはそこには触れず、私の意思を受け入れてくれた。
それは私を信じてくれているということの表れのようで、なんだかとても心強く思えた。



「お花とお布施は持ったわね」

「うん」

「じゃあ、行きましょうか」

理人さんと約束を交わしてから2週間後。
繁忙期であるお盆も過ぎ、ついに私は二人の眠る場所へと連れていってもらうことになった。

理人さんの言う納骨堂は、トロイメライから車で1時間ほどの距離にあるらしい。
お供え用のお花も特別につくってもらい、私はそれを抱えながら、助手席に乗りこんだ。

不思議と心は落ち着いている。
それは、あまり現実味を感じていないせいなのかもしれない。
窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、私は静かに時を待った。

「さぁ、着いたわ」

そうこうしているうちに、車はお寺によく似た建物の前に辿りついた。
ここが納骨堂というところなのだろうか。
見れば庭石や屋根瓦に、比較的新しい印象を受ける。
どうやら、それほど古い施設ではないらしい。
今日が平日ということや、お盆が過ぎたというのもあるのか、私たち以外の人の気配はなかった。

「こっちよ、雨音」

車を下りた私たちは、そのまますぐに建物の中へと入った。
室内は穏やかに照らされており、空調も管理されていて、中にはたくさんの仏壇が整然と並んでいる。
納骨堂とは、これらの仏壇を遺骨の安置場所として貸し出すところなのだそうだ。

通路を迷いなく進む理人さんの背を追いながら、辺りを見回す。
私にはどの仏壇も区別がつかないけれど、ひとつひとつに別の人が供養されているのだから、なんだか不思議な感覚だ。

「ここよ」

やがて、理人さんはひとつの仏壇の前で足を止めた。
ここが二人のための場所らしい。
金や黒で装飾されたそれは、綺麗に掃除をされていて、やはり他のものと大差はないように見える。
そのためか、ここに眠っているなんて、にわかには信じられなかった。