寒い。
それが僕が最初に死んで感じた感覚。
人は心臓が止まってからも数秒は、
脳は生きてるらしい。
そして僕は死の感覚を体感する。
それは死を選んだ人間だけが体験できる、
特等席だ。
寒い、寒い、寒い・・・
不思議と痛みは無かった。
ただどこまでも底無しの寒さだけが、
全身を覆っていた。
周りは底無しの闇で、
ただ寒さだけが辺りを満たしていた。
唐突に声が聞こえた。
心の中で囁かれた様な声だった。
【目覚めよ我が君よ】
目覚めろ?
何を言っているんだ!?
目覚めて、
この苦痛を永遠に味わえとでも言うのか。
ふざけるな!
もう死なせてくれ・・・
僕はもう疲れたんだ
「目覚めよ我が君よ」
「うるさい!!」
僕は思わず出た自分の声に驚いて目を開けた。
辺りは暗く目が霞んで何も見えない。
一瞬生きているのかと思ったが、
やはり死んでいる様で安堵した。
そんな静かな闇の中に唐突に光が灯った。
1つ、2つ、3つ、数えきれない灯火が灯る。
その火の玉は、
左右一列に道をつくって続いていた。
良く見るとフードで顔を覆った異教徒が、
一列に並んで松明を掲げていた。
そしてその中心、
薄暗い闇の中で一匹の鬼が佇んでいた。
鬼の顔をした何かが。
鬼の仮面にさしては生々し過ぎるなにか・・・
その姿に地獄の閻魔大王を想起し納得する。
そうか僕に安息の地なんて無かったんだ。
死んでからも僕は地獄で苦しむんだ。
そう思うと倒錯した笑いが込み上げた。
「クックックック」
その異形の何かは、そんな僕に傅き囁いた。