序章 0ヶ月 おひとりさまの過ごし方

 できちゃった結婚。スピード婚。同棲宣言。
 連日にわたり、芸能人の華やかな私生活が女性誌を賑わせている。
 たまたまコンビニでその女性誌を手にした私は、野菜ジュースと共に購入してしまった。決して芸能人のゴシップに興味があるわけではない。たまたまである。
 そして公園でのおひとりさまランチのあとに熟読している。
 屋外の公園は明るい陽射しに溢れており、心地好い日和だ。
 隣に彼氏でもいれば楽しいのかもしれない。同僚の女性たちとランチすれば会話が弾むのかもしれない。
 しかし私はそんなものとは無縁なので、黙々と女性誌を読んでいる。
 どうにも業務事項以外のことを人と話すのが苦手なのだ。だって会社って、仕事するところじゃないですか。職場でしか顔を合わせない同僚から、会ったこともない彼氏との仲を相談されても困る。
 おひとりさまとは、私のためにある言葉である。彼氏いない歴は、年齢の二十五歳と一緒だ。
「デキ婚かぁ……。絶対、確信犯だよね。身に覚えがないわけないもんね。『できちゃったの』なーんて、上目遣いで彼氏に結婚を迫るんだろうなぁ」
 有名な野球選手と元アイドルの女性がデキ婚という記事を読み、女のしたたかさを勝手に推察する。
『できちゃった』と相手に告白するときは修羅場になるのか、それともあっさり結婚しようと片がつくのか、どうなるのだろう。
 典型的な干物女子である私こと、星野(ほしの)あかりの凡庸たる人生には無縁なので全くわからない。私の人生や経歴において輝かしいのは名前だけである。
 でも、それでいい。
 こうして遠い世界の人たちの惚れた腫れたを眺めているくらいが、ちょうどよいのだから……。
 パタン、と雑誌を閉じた私は、ランチバックを手にしてベンチから立ち上がった。
 そろそろお昼休みが終わる。会社へ戻ろう。