そんなもの、私は誘われていない。

 誘われても行かないけど、心臓が嫌な感じに鼓動しているのが分かる。誘われなかったこと自体のショックではなく、誘われもしなかったという不安が大きい。

 嫌な予感がする。これを機に、またあの時みたいなことが始まるんじゃないか。

 胸が何かに駆られるようで痛い。教室に行きたくない。でも急かされるように足は速まり、黒板側から教室に入ると、そこはいつもと異なる光景が広がっていた。

 いつもなら、黒板側には隠れるように控えめな男子たちが教卓のほうに集まり、静かに会話をしている。対照的に後ろ側のロッカーの方ではげらげらと河野由夏たちがいる。

 しかし、今日は河野由夏たちが黒板側を占拠していて、いつも通り華やかな雰囲気の男女の輪を作り、動画か曲を流しながら笑って話をしていた。

 その中には、当然清水照道もいる。不意に奴と目が合うと、清水照道は口を少し結び、何かを堪えるようにして視線を逸らす。私もそのまま逸らし、ロッカー側の扉から教室に入って席に着いた。

 鞄を横にかけて、鞄の中から教科書やノートを取りだす。その中には昨日のルーズリーフを写した英語のノートもあって、それに目を移す。

 昨日、私は奴に助けられた。

 そしてそれから次の日になった今、なんで私はあんな顔されなきゃいけない?

 人がこちらを異物としてみたり、軽蔑してみたり、馬鹿にしている目つきは今まで何度も間近で見てきたからよく分かる。でも清水照道の顔はまるで私が何かをやったかのような、苦しんでいるような目つきだ。

 ちらりと前を向いて奴らを見ると、河野由夏が肘を千田莉子の二の腕にぶつけるようにして押した。千田莉子は小刻みに頷いて、「あのさあ」と演技がかった声を発する。

「清水ってさ、彼女いんの?」

「え、チダリコ照道に興味あんの? うける」

 千田莉子の問いかけに、周りの男子が囃し立てるように笑う。清水照道は遮るように「それがマジでいねーんだよなあ……! 超寂しいの。この夏なんとかってのもう毎年繰り返してるかんね」と大げさにうなだれて見せた。

「じゃあどんな人がタイプ? なんなら当ててあげようか?」

 河野由夏が勝気に笑い、「年上系でしょ?」と清水照道に指を指す。

「いや俺年上年下は無い派だわ。生粋のババア大好きマンの寺田と違って」

「うんうん……て誰がだ! 俺は年下派だよ!」

「ロリコンをカモフラージュに使うなよ」

「いやロリコンじゃねえし!?」

 野球部の寺田が大声で首を横に振る。背も高い分、視覚からも聴覚からも煩い。視界から抹消するように机の中に教科書やノートをしまう。

 また動画撮るだの文句言われるのも嫌だし、校内を歩いて人通りのないところを見つけようと私は立ち上がった。

「俺のタイプ、実はこのクラスにいんだよね」

「ええ〜誰? もしかして由夏とか?」

 清水照道の言葉に、千田莉子が無邪気な子供を全面に押し出した語り口で目を輝かせる。その仕草や動きが、自分の面白さを認めさせようと必死に見えて寒さすら感じた。

 河野由夏に媚びを売ればクラスでの立ち位置が約束されるからなのか、友達としての河野由夏がそれほどまでに魅力的なのかは分からないが、そこまでする必要があるのか疑問だ。河野由夏からすれば、さぞかし気分がいいだろうけど。

 しかし、次の瞬間、私は河野由夏の瞳を見て戦慄した