「えー照道樋口さんの隣なのー?」
「そう、ちょうど萌歌が窓際座ってたから、詰めて逃げられなくしてみた」
「照道こわ、ストーカーっぽいよ? 今ゾワッとした」
「何言ってんたよ押してダメならって言うじゃん?」
「いやそういう時引くんだって」
河野由夏はいかにも高そうな靴を履いて、笑いながら後ろの席へと歩いていく。
その後を千田莉子、寺田、その他がついていった。
自分に話題の矛先が向けられなかったことに安堵しつつ、今清水照道をどかそうとするなら確実に奴にネタにされると考え、私は移動を諦めた。
せめて奴が視界に入らないよう窓に目を向けると、窓の外に保健室の先生と萩白先輩の姿が見えた。先輩は今日もマスクをしながら、バスの近くに停めてあった乗用車に乗り込んでいる。
服は制服じゃなくて、柔らかな色合いのパーカーにジーンズ姿だ。横顔しか見えなかったけれど、間違いなくあの姿は萩白先輩だろう。
でも、今日は一年生の行事のはず。二年生と三年生は休みだ。登校日でもない。
何もすることがないから、私は休み時間の間、廊下に張り出されている学年共通の予定表をよく見ていたし、間違いはない。
それに、養護教諭の先生は引率の先生のリストに入っていたから、体調が悪くなった先輩を移動させているわけでもないはずだ。
疑問に思っていると、安堂先生が乗り込んできて点呼を初めた。
先生は河野由夏に「先生今日の服かわいいー! 気合入ってんじゃん」と揶揄され、恥ずかしそうに笑い、点呼を中断して河野由夏と会話をしていく。
どうして先生はこんな感じなんだろう。
白けた気持ちになって、俯く。そういえば隣の清水照道は、騒ぐ気配がない。恐る恐る視線を向けると、奴は安堂先生に冷え切った目を向けていた。
しかし私の視線に気づいてか、顔をぱっと明るくして「なあに? 何か飲みたい? 間接になっちゃっていいならスポドリあるよけど」と鞄を漁りだした。
さっきのは、目の錯覚か。
私はため息を吐いて、窓の外の動かない景色をぼんやり眺めたのだった。