「……っ!?」
清水照道がこちらを私の腕を掴みながら、じっと見ている。その目はふざけているようにも見えず、でも何か強い意思を感じて逸らすと、奴は私の腕を離すことなく「……聞いた?」と呟いた。
「……な、な、な、何がだ」
「聞いてたでしょ。さっきの話」
まるで能面のように感情がない顔に、足が震えた。なんて返事をしていいか分からないでいると、「別にいいよ聞いてても」と、捨てるように言い放つ。
「……どういう、意味だ」
「意味が分かったところで、何も変わらないから。……じゃあ、先教室戻ってるな、萌歌ちゃん」
清水照道は昏い目でそう言ってから、一瞬にして表情をいつものふざけた顔に変えていく。そして私を通り過ぎ、軽やかな足取りで教室へと駆けていった。
何なんだ。あいつは。
私がそれを聞いたところで、あのふざけた振る舞いは継続するということか。
ふざけやがって。
お腹の奥が、煮えるようにむかむかする。いくら拳を握りしめても、奥歯を噛みしめても全然収まらない。
……復讐してやる。
今まで、人に何かをされてきて、死ねと思うこともあったし、殺してやると思ったことだって何度もあった。学校が無くなって、全員消えろなんて思うことはしょっちゅうだった。でも、今私は、明確に清水照道に対して、私が奴を苦しめてやりたいと思った。
あいつはウェイで、生粋の陽キャで、リア充の勝ち組にいる。だから、ぼっちで、生粋の陰キャで、何も得意じゃない私を馬鹿にして、見下しているのだ。何もできないと。
でも、いつかその甘さの隙をついて、苦しめてやる。人のことを玩具扱いさせた後悔をさせてやる。
飄々として、教室へと走る清水照道の背中を、思い切り睨む。
私は、私はいつかあいつに、最低最悪の、復讐をしてやる。