「ほら、クラスの奴、俺ら探してるみたいだけど、駅の通りにいるっぽいから」
ぼそりと「だから絶対ここなんか来ない」と続けて、馬鹿にするように低く鼻で笑う。その笑顔が苦しそうで、自分で首を絞めているみたいに見えて、私は手のひらを握りしめた。
「……お、お、お前の目的は……な、……何だ」
「樋口さんと仲良くすること!」
私と、清水照道の間に、まるで秋風のような冷たく強い風が吹いた。枝から零れるように落ちた葉が、隙間を縫うように通り過ぎていく。
「そ、そ、そーんな訳、ない……だろ」
私と、仲良くなりたい人間が学校の中にいる訳ない。
学校はクソみたいな場所で、通ってるやつらはみんなクソだ。人の気持ちも知らないで、勝手に話し方を真似して笑いものにしたり、馬鹿にしたりする奴らしかいないところだ。
清水照道を睨むと、奴は怯むこともなく自嘲気味に笑って私を見る。
「いいよ」
「……は?」
酷く、遠いものを見るように清水照道は私を見る。私の背後には夕日が沈みかけているらしく、奴の明るい髪に、温かみのある色が差した。対照的に周りの景色は黒く沈み、どんどんと色を失い影になっていく。
「萌歌は、それでいいから」
まるで自己完結をするように言ってから、清水照道は続けてまた静かに囁く。私はその言葉が聞き取れたものの、こいつがそんなことを言うはずもないと思いなおして、結局意味が分からないまま奴を見ていた。
鞄を背負いなおしながら歩き、空を見上げる。昼間は白かった雲が夕日を受けて、灰色や鬱陶しさのないピンク色に染まりながら浮かんでいた。
今日は、本当に長い一日だった。あいつのせいで。
あの後、清水照道は私に「ベンチに座ってなよ」なんてベンチに座らせた後、黙ったままだった。
その後、二十分くらいしてから唐突に「あいつら帰ったっぽいから帰るか」と言って、あっさりと私を解放した。
てっきりそのまま解散になるかと思ったけど、結局駅どころかホームまで来て、あの団地に囲まれた公園が幻であったかのように、ずっとへらへら笑っていたのだった。
あいつは一体何なんだ。
六月の変な時期に転校してくるような人間にも見えないし、馬鹿みたいに明るいかと思えば訳のわからない廃墟じみた団地の近くの公園に人を連れていく。
憑りつかれてんのかあいつは。
というか、明日には私で遊ぶこと、飽きてくれてないだろうか。
あいつに構われていたら、きっとどこかで私がどもっていることが河野由夏らにバレてしまう。
……いや、清水照道の前で、私は何度も詰まったりしていた。あいつは特に反応を示すこともなかったから私も気に留めていなかったけど、私は今日、あいつと話をした。
また、前みたいに馬鹿にされるんじゃ……。
足が止まり、地面を見つめる。体から一気に血の気が引いて、体温がすべて地面に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
明日、絶対河野由夏たちは今日のことを聞くだろう。そして清水照道はそのまま話をする。嘘をつく必要がない。
……でも、清水照道は、今日の音読のとき、変な動きを見せた。
音読を続け、私が読み上げていないのに、読み上げたと言った。
私が音読を嫌がっていることを、察したかのように。
しかし、先生に怒られないために嘘をついたと考えることができる。けれどあいつが、先生に怒られることを気にするような人間だろうか……?
明日が来ることは怖い。でも、心が恐怖に占められることもなく、私は明日も無事に学校に通えることを祈りながら、夕焼けの道を歩いていた。
ぼそりと「だから絶対ここなんか来ない」と続けて、馬鹿にするように低く鼻で笑う。その笑顔が苦しそうで、自分で首を絞めているみたいに見えて、私は手のひらを握りしめた。
「……お、お、お前の目的は……な、……何だ」
「樋口さんと仲良くすること!」
私と、清水照道の間に、まるで秋風のような冷たく強い風が吹いた。枝から零れるように落ちた葉が、隙間を縫うように通り過ぎていく。
「そ、そ、そーんな訳、ない……だろ」
私と、仲良くなりたい人間が学校の中にいる訳ない。
学校はクソみたいな場所で、通ってるやつらはみんなクソだ。人の気持ちも知らないで、勝手に話し方を真似して笑いものにしたり、馬鹿にしたりする奴らしかいないところだ。
清水照道を睨むと、奴は怯むこともなく自嘲気味に笑って私を見る。
「いいよ」
「……は?」
酷く、遠いものを見るように清水照道は私を見る。私の背後には夕日が沈みかけているらしく、奴の明るい髪に、温かみのある色が差した。対照的に周りの景色は黒く沈み、どんどんと色を失い影になっていく。
「萌歌は、それでいいから」
まるで自己完結をするように言ってから、清水照道は続けてまた静かに囁く。私はその言葉が聞き取れたものの、こいつがそんなことを言うはずもないと思いなおして、結局意味が分からないまま奴を見ていた。
鞄を背負いなおしながら歩き、空を見上げる。昼間は白かった雲が夕日を受けて、灰色や鬱陶しさのないピンク色に染まりながら浮かんでいた。
今日は、本当に長い一日だった。あいつのせいで。
あの後、清水照道は私に「ベンチに座ってなよ」なんてベンチに座らせた後、黙ったままだった。
その後、二十分くらいしてから唐突に「あいつら帰ったっぽいから帰るか」と言って、あっさりと私を解放した。
てっきりそのまま解散になるかと思ったけど、結局駅どころかホームまで来て、あの団地に囲まれた公園が幻であったかのように、ずっとへらへら笑っていたのだった。
あいつは一体何なんだ。
六月の変な時期に転校してくるような人間にも見えないし、馬鹿みたいに明るいかと思えば訳のわからない廃墟じみた団地の近くの公園に人を連れていく。
憑りつかれてんのかあいつは。
というか、明日には私で遊ぶこと、飽きてくれてないだろうか。
あいつに構われていたら、きっとどこかで私がどもっていることが河野由夏らにバレてしまう。
……いや、清水照道の前で、私は何度も詰まったりしていた。あいつは特に反応を示すこともなかったから私も気に留めていなかったけど、私は今日、あいつと話をした。
また、前みたいに馬鹿にされるんじゃ……。
足が止まり、地面を見つめる。体から一気に血の気が引いて、体温がすべて地面に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
明日、絶対河野由夏たちは今日のことを聞くだろう。そして清水照道はそのまま話をする。嘘をつく必要がない。
……でも、清水照道は、今日の音読のとき、変な動きを見せた。
音読を続け、私が読み上げていないのに、読み上げたと言った。
私が音読を嫌がっていることを、察したかのように。
しかし、先生に怒られないために嘘をついたと考えることができる。けれどあいつが、先生に怒られることを気にするような人間だろうか……?
明日が来ることは怖い。でも、心が恐怖に占められることもなく、私は明日も無事に学校に通えることを祈りながら、夕焼けの道を歩いていた。