一緒に帰ろうとこいつが誘ってきたとき、私を馬鹿にする為だと思っていた。
でも今、馬鹿にされる恐怖ももちろんのこと、得体のしれない人間に腕を引かれるという恐怖のほうが勝り始めている。
このままついていっても、いいことなんて起きない。むしろ嫌なことしか起きない気が学校を出る前からしていた。けれどこの男が、私の想像を越えた、違う何かをしてきそうな気がしてならない。
「……ちょ、ちょっと」
目の前を走る男に、意を決して問いかけようとすると、清水照道は不自然に足を止めた。
「ついたよ、俺のお気に入りの場所」
清水照道は私の腕から手を離す。「樋口さん、ほら見てよこの景色」と言って、前方を指で示した。
言われたとおりにして視界に入ってきたのは、赤に近い、血のようにも見える濃いオレンジと、べったりした黒い木々。そしてその景色を囲うように新部られたベンチたちだ。
清水照道の連れて来たかった場所というのは公園のことらしい。
ベンチと、水飲み場、トイレだけが置かれた簡素な公園で、遊具と言われるようなものは何一つなく、子供もいなければ、周囲に人の気配がない。音もほとんど無く、烏の鳴き声もしない。
何だここは。
遠くに見えるのは、古びた団地だ。同じ団地がいくつも並び群れを成しているみたいで、新しさはなく威圧感がある。
「結構景色良くね? いいでしょ」
清水照道は嬉々として周囲をぐるりと見渡す。視界は、開けていると思う。周囲とはわずかに高低差があるのか、高台のようになっている。けれど周囲は木々が生い茂り後ろに団地の群れもあることで、空も、その下のの街並みも見えているのに開かれた感じは無い。
こいつが、この場所を好きだということに対して、酷く違和感を感じた。
私がこういう場所を好きだといえば、満場一致でらしいという答えが並ぶだろう。
しかし清水照道は生粋のウェイの人間だ。日差しに生き、毎日がパーティーですみたいな人種のはずだ。人の好みは自由だとは思うけど、どうもしっくり来ない。それにお気に入りの場所だと言いつつ清水照道はスマホを操作して、まるで何かを監視するように鋭い眼を画面に向けている。
不審に思い見つめていると、奴はこちらを見ることなく「他の奴突然来たりしないから安心してていいよ」と、教室での状態が嘘みたいな、驚くほど淡々とした声で呟いた。
相手が私だから盛り上げたり笑わせる必要がないというのは十分理解できるけど、その声があまりに温度がなく、一歩退く。
すると清水照道はその距離を埋めるようにこちらに近づき、私に向けてスマホを見せてきた。