「一緒に帰った記念ってことで、撮っていい?」

 そう言って、清水照道は黒いケースに入ったスマホをこちらに向ける。

 背後に視線を感じながら学校を出て、大体三十分が経ったけれど、全然学校の最寄りの駅に着く気がしない。

 学校を出る時に「樋口さん電車通学でしょ?」と言われ頷いて以降、さっきから訳の分からない路地を、ただぐるぐると歩いているだけだ。

 私のような人間と歩くところを見られたくないからと思っていたけど、時折人通りの多いところを歩いたり、店に入ったかと思えば、ぐるりと一周して出てきたりとよく分からない。

 こいつは一体何を考えているんだ。

 鞄の紐をぎゅっと握りしめながら、私の前を愉快そうに隣を歩く清水照道の真意を探っていると、奴は道の端によりスマホをインカメラモードにして、私の肩を抱き寄せた。

「初めて帰り記念ーっと」

 カシャン、と電子音が響く。

「よし、最高じゃん! 絶対誰にも送らないようにしよ。悪用されたらやだもんな」

 清水照道はわざわざスマホの画面をこちらに向け、撮った写真を見せてくる。

 満面の笑みを浮かべた清水照道と、俯く私。

 どう考えても、最高の写真ではない。

 しかし手慣れたような操作でキラキラしたクソフレームをつけて、明るさを調整し、楽しそうに編集していく。そうして私や、自分の周りに、馬鹿らしいキラキラをつけながら、清水照道は「あのさあ」と切り出した。

「ちょっとついて来てもらいたいとこあんだけど、まだ時間ある?」

「……え」

「雰囲気最高の場所あるんだけど、樋口さんと一緒に行きてえなーって思って」

 そう言って清水照道は私の腕を掴むと、一気に走り出した。

 意味も分からず足が縺れると、私の腕を掴む奴はそれをカバーするように速度を上げる。時折後ろをちらちら確認しては、速度をまた上げる。その速さは何かを振り切りようにも感じられて、また頭に疑問が浮かんだ。

 なんだこいつは。一体何がしたいんだ。 

 玩具に感情なんかないだろと舐めているのか。

 景色は目まぐるしく変わり、街並みから住宅街へと、そして人気のない道へと変わっていく。並んでいた建物は家々に変わり、それらは木々へと移ろいで行く。

 私をどこへと連れて行こうとしているんだ。

 清水照道はやがて後ろを振り向くのを止め、走ることに集中し始めた。私の様子を伺うけれど、すぐにそのふざけた顔より茶色い髪が靡いていくのが視界を埋める。

「こんぐらいならあいつらも着いてこられないだろ」

 ただただ引かれるままに足を動かしていると、履き捨てるような声が聞こえた。

 その声色は、忌々しいものを口にするみたいな言い方で、確実に同じ仲間内の人間に対して発した声には聞こえない。

 こいつの言う「あいつら」は、きっと下駄箱でこちらを笑っていた河野由夏たち……ウェイのクソキラ連中に対する言葉のはずだ。でもなんでその連中に対して、履き捨てるような物言いをするんだ?

 こいつの目的が、全くつかめない。